事故事例・再発防止

型枠支保工の倒壊事故事例と再発防止
【建設業の実務】

2026年5月29日  |  AnzenAI編集部  |  約12分で読めます

型枠支保工の倒壊事故は、ひとたび発生すれば建設業の現場で複数の作業員を巻き込む重大災害となります。コンクリート打設中の支保工倒壊は、打設員・型枠大工・鉄筋工・生コン圧送オペレーターが同時に被災することも珍しくなく、過去には1件で5名以上の死傷者を出した事例も公開されています。なぜ繰り返し起きるのか。原因を「組立図と異なる施工」「荷重計算の不足」「打設管理の甘さ」「点検フローの形骸化」の4視点で整理し、再発防止に直結する運用フローを建設業の現場視点でまとめました。

本記事はPillar記事として、関連する型枠工事・鉄骨建方・掘削土留め・コンクリート打設の各記事への内部リンクハブとしても機能します。施工計画・KY活動・安全パトロール・新人安全教育の場面でリファレンスとして活用してください。

目次
  1. なぜ型枠支保工の倒壊事故が繰り返されるのか
  2. 公開資料から見る代表的な倒壊事故5事例
  3. 倒壊の原因分析|4つの典型パターン
  4. 建設業が遵守すべき法令上の事項
  5. 再発防止の運用フロー|組立から解体まで
  6. 関連記事ハブ|型枠・鉄骨・掘削・打設
  7. まとめ|再発防止は計画段階で8割決まる

なぜ型枠支保工の倒壊事故が繰り返されるのか

厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」(2025年5月公表)によると、建設業の死亡者数は232人で全産業中最多です。このうち崩壊・倒壊型の死亡災害は例年10〜20人前後で推移しており、型枠支保工に関連する事案が一定数を占めています。倒壊事故は発生頻度こそ墜落・転落より低いものの、一度起きると多数被災型の重大災害となる点が建設業の安全管理上の最大の論点です。

232
建設業の死亡者数(令和6年確定値)
3.5m
設置届出が必要な支保工高さの基準
複数
倒壊1件あたりの被災規模(過去事例)

出典:厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」/建設業労働災害防止協会「建設業労働災害発生状況」

倒壊事故の根本には「組立図の軽視」「現場での寸法・部材変更が口頭で許可される文化」「打設速度が工程優先で計画値を超える」という、建設業特有の構造的な課題が横たわっています。事故を起こす型枠支保工と、無事故で解体まで完了する型枠支保工に、技術力の差はほとんどありません。差を生むのは運用ルールの厳格さです。

公開資料から見る代表的な倒壊事故5事例

以下は失敗知識データベース・労働基準監督署の災害事例集・建設業労働災害防止協会の事例集等の公開資料に掲載されている、型枠支保工の倒壊事故を整理したものです。企業名は伏字または「A社」等の表記としています。

事例1|大型スラブ打設中の支保工座屈倒壊(A社、共同住宅工事)
災害類型:崩壊・倒壊/被災:死亡1名・負傷4名

大型集合住宅のスラブコンクリート打設中、支保工パイプサポートの座屈により支保工全体が崩壊。コンクリート約30㎥が下階に流れ落ち、下階で配筋作業中の作業員が下敷きになった。組立図では支柱間隔を900mmとしていたが、現場で資材不足により1,200mmに広げて施工した区画があった。

事例2|橋梁工事の支保工倒壊(B社、橋梁上部工)
災害類型:崩壊・倒壊/被災:死亡2名

橋梁上部工の張出施工で使用していた支保工が、打設開始から約30分で側方に倒壊。水平つなぎに直交クランプではなく根がらみクランプが多数誤用されていたことが判明。緊結力不足で水平方向の力に耐えられなかった。

事例3|地下駐車場の打設中倒壊(C社、商業施設地下工事)
災害類型:崩壊・倒壊/被災:負傷3名

地下スラブ打設中、ポンプ車のホースから吐出されるコンクリートを1箇所に集中して打設したことで、局所的に側圧が急増し型枠とともに支保工が崩壊。打設計画書では「均等打設」が明記されていたが、現場での監視員配置がなく逸脱に気づかなかった。

事例4|冬季打設の長時間側圧による倒壊(D社、寒冷地マンション)
災害類型:崩壊・倒壊/被災:死亡1名・負傷2名

冬季の壁打設で、コンクリート温度が低く硬化が遅れたため側圧が長時間継続。打設速度の管理基準も夏季基準のままだったため、型枠のセパレーターが伸びきり、型枠と支保工が連鎖的に倒壊した。

事例5|解体作業中の梁下支保工倒壊(E社、RC造ビル新築)
災害類型:崩壊・倒壊/被災:死亡1名

解体作業中、上階の打設荷重を受けていた梁下支保工を「強度が出ているはず」と感覚判断で先行解体。コンクリート強度試験を実施しないまま下階の支保工を撤去し、上階梁が自重で落下した。

5事例に共通するのは、いずれも「組立図・計画書には正しい指示が書かれていた」点です。倒壊事故は知識不足ではなく、現場運用での逸脱を防げなかった監督の管理体制側に主因があるケースが大半です。

倒壊の原因分析|4つの典型パターン

5事例を踏まえ、型枠支保工の倒壊事故が起きる典型パターンを4つに分類します。再発防止策を立てる際の出発点としてください。

パターン 典型的な逸脱 結果として起きる事象
① 荷重計算不足 組立図と異なる支柱間隔・配置で施工、構造計算の見直しなし 支柱の座屈、軸力過大による倒壊
② 打設順序の逸脱 1箇所集中打設、計画速度を超える急速打設、層厚過大 局所側圧の急増、型枠と支保工の連鎖崩壊
③ 締付・接合不良 水平つなぎへの根がらみクランプ誤用、筋かい省略、継手の不適切 水平剛性不足による横倒れ、支柱の連鎖座屈
④ 解体判断の感覚化 コンクリート強度試験省略、上下階打設タイミング未調整 強度不足下での荷重移行、梁・スラブの落下
4パターンに共通する温床
いずれのパターンも「組立図や計画書には記載があるが、現場で守られていない」という状態で起きます。再発防止の本質は技術ではなく、計画と実態を一致させる仕組み(点検フロー・記録・第三者確認)にあります。次セクションで具体的な運用フローを示します。

建設業が遵守すべき法令上の事項

型枠支保工に関する法令は、労働安全衛生規則(安衛則)第237条〜第247条に体系的に規定されています。倒壊事故の再発防止という観点で特に重要な条文を整理します。

条文 規制内容 再発防止上の意味
第239条 構造の安全性(荷重・打設方法に応じた設計) 打設条件変更時は構造計算を再確認する根拠
第240条 組立図の作成義務 支柱・つなぎ・筋かいの位置を一義的に確定
第242条 高さ3.5m以上は設置届を30日前までに提出 監督署の事前確認で重大な計画不備を抑止
第244条 コンクリート打設前・打設中の点検義務 異常検知時の補修・打設中止の根拠
第245条 悪天候時の作業禁止・立入禁止区域 強風・大雨時の倒壊リスクを低減
第247条 解体作業の措置(立入禁止・誘導員等) 解体中の倒壊と落下物事故を防止
【法令】労働安全衛生規則 第244条(点検)
事業者は、コンクリートの打設の作業を行う場合において、その日の作業を開始する前に、当該作業に係る型わく支保工について点検し、異状を認めたときは、補修し、又はその他必要な措置を講じなければならない。

条文を「読んで知っている」と「現場運用に落とし込まれている」は別物です。建設業の倒壊事故では、いずれも条文の存在は把握されていたものの、点検記録の様式が整備されていない、責任者が明確でない、異常時の中止判断権限が曖昧、といった運用面の不備が事故の引き金になっています。

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再発防止の運用フロー|組立から解体まで

建設業の現場で型枠支保工の倒壊事故を防ぐためには、各フェーズで「逸脱を検知し止める」ポイントを仕掛けておく必要があります。組立前のKY活動から解体後の記録まで、7ステップの運用フローを示します。

  1. 1
    組立前KY活動と組立図読み合わせ
    作業主任者を中心に、組立図のキーポイント(支柱間隔・水平つなぎ位置・筋かい本数)を全員で確認。KYボードの書き方に倒壊リスクと対策を明文化し、現場掲示する。
  2. 2
    部材受入時の種別・損傷チェック
    直交クランプと根がらみクランプを色テープで区別し、誤用を物理的に防止する。損傷・腐食・変形のある部材は隔離する。
  3. 3
    組立完了後の第三者点検
    組立を行った班とは別の責任者が、組立図と照合して全数点検する。点検結果は写真付きで記録し、不備があれば補修完了後に再点検する。
  4. 4
    打設前点検(安衛則第244条)と打設計画の最終確認
    打設速度・1層高さ・コンクリート温度・専任監視員の配置を打設前ミーティングで再確認する。冬季は側圧管理基準を季節補正する。
  5. 5
    打設中の連続監視と中止判断
    支柱の傾き・水平つなぎの変形・型枠継目からのモルタル漏れ・異音を専任監視員が連続観察。1つでも該当すれば即時打設中止の権限を監視員に与える。
  6. 6
    解体前のコンクリート強度確認
    圧縮強度試験結果を書面で確認。スラブ下は設計基準強度の85%以上かつ12N/mm²以上、梁下は設計基準強度以上を満たすまで支保工を存置する。
  7. 7
    解体作業の手順管理と記録
    上から下へ・梁下支保工は最後に残す原則を徹底。立入禁止区域を設定し、作業計画書通りに進行したか写真記録を残す。
仕組み化のコツ|「止める権限」を末端に渡す
倒壊事故の多くは「現場で異常に気づいた人がいたのに、止められなかった」局面で起きます。打設監視員・解体作業員に「異常を認めたら即時打設中止・解体中止を宣言する権限」を就業規則やTBM資料で明文化することが、最大の再発防止策です。建設業の文化として「止める勇気を称える」雰囲気づくりも同時に進めてください。

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本記事はPillar記事として、関連する建設業の工種別安全記事への内部リンクハブを兼ねています。あわせて参照してください。


まとめ|再発防止は計画段階で8割決まる

型枠支保工の倒壊事故は、建設業における「多数被災型重大災害」の代表格です。本記事の要点を改めて整理します。

建設業全体の死亡災害ゼロを目指す上で、型枠支保工の倒壊事故は「ゼロにできる」災害です。技術はすでに確立されており、課題は運用の徹底のみ。本記事の運用フローを朝礼・KY活動・安全教育の場面で繰り返し活用し、現場の安全文化として根付かせてください。

参考資料・出典
・厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」(2025年5月公表)
・建設業労働災害防止協会「建設業における労働災害発生状況(令和6年確定値)」
・労働安全衛生規則 第237条〜第247条(型わく支保工)
・科学技術振興機構「失敗知識データベース」公開事例
・建設業労働災害防止協会「第8章 型枠支保工、足場等の倒壊等による危険の防止 解説」
※ 事例は公開資料を基に建設業の典型パターンとして再構成しており、企業名は伏字としています。
國分 良太

著者

國分 良太

制御設計エンジニア → AI・IoT・DX推進|AIコンサルタント|東京の製造業メーカー開発部門

製造業の現場で設備設計・改善プロジェクト・品質向上施策に従事。なぜなぜ分析(RCA)やリスクアセスメントの実務経験をもとに、現場DXを支援するアプリケーションの開発と情報発信に取り組んでいます。AIコンサルタントとして、企業のAI・生成AI活用や現場DX導入の支援も行っています。

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