掘削工事における土砂崩壊は、建設業で最も重篤化しやすい災害の一つです。生き埋めによる死亡事故は、発生件数こそ墜落・転落より少ないものの、一度起きれば致死率が極めて高い点が特徴です。
崩壊を防ぐためには、地山の種類に応じた掘削勾配の設定、土留め支保工の適切な設計・施工、そして日常の点検が不可欠です。しかし現場では「この土質ならどこまで掘っていいのか」「点検で何を見ればいいのか」が曖昧なまま作業が進むケースが後を絶ちません。
本記事では、安衛則が定める地山の種類別の掘削基準と土留め支保工の点検項目を、コピペで使えるチェックリスト付きで解説します。
令和6年(2024年)の建設業における死亡者数は232人です。このうち「崩壊・倒壊」による死亡災害は土木工事を中心に毎年一定数発生しており、特に掘削中の土砂崩壊による生き埋め事故は重篤化率が際立ちます。
出典:厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」(令和7年5月公表)、建設業労働災害防止協会
労働安全衛生総合研究所の分析によれば、溝掘削工事での土砂崩壊災害は「掘削深さ1.5m未満の浅い溝」でも発生しています。浅いから安全という思い込みが、被災の直接原因になるケースが繰り返されています。
労働安全衛生規則第356条は、手掘りによる地山の掘削作業において、地山の種類と掘削面の高さに応じた勾配基準を定めています。この基準を超える勾配での掘削は、法令違反であると同時に崩壊災害の直接原因です。
| 地山の種類 | 掘削面の高さ | 掘削面の勾配 |
|---|---|---|
| 岩盤または堅い粘土 (亀裂のないもの) |
5m未満 | 90度以下 |
| 5m以上 | 75度以下 | |
| その他の地山 (風化岩、粘土、礫混じり土等) |
2m未満 | 90度以下 |
| 2m以上5m未満 | 75度以下 | |
| 砂からなる地山 | 5m未満 | 35度以下 |
| 発破等で崩壊しやすい状態の地山 | 2m未満 | 45度以下 |
出典:労働安全衛生規則 別表第318号(手掘りの場合)
| 地山の種類 | 掘削面の高さ | 掘削面の勾配 |
|---|---|---|
| 岩盤または堅い粘土 | 制限なし | 90度以下 |
| その他の地山 | 2m未満 | 90度以下 |
| 2m以上5m未満 | 75度以下 | |
| 砂からなる地山 | 制限なし | 35度以下 |
| 発破等で崩壊しやすい状態の地山 | 制限なし | 45度以下 |
掘削深さが1.5m以上になる場合、「建設工事公衆災害防止対策要綱」により土留め工の設置が求められます。安衛則第361条も、地山の崩壊や土石の落下により危険が生じるおそれがあるときは、土留め支保工の設置等の措置を義務付けています。
| 工法 | 概要 | 適用条件 |
|---|---|---|
| 自立式 | 土留め壁のみで自立させる工法 | 掘削深さが浅い場合、良質な地盤 |
| 切梁式 | 腹起し・切梁で土留め壁を支持 | 最も一般的。中程度の深さの掘削 |
| アンカー式 | グラウンドアンカーで土留め壁を支持 | 広い掘削面積が必要な場合 |
| アイランド式 | 中央部を先行掘削し、構造物を構築後に周辺を掘削 | 大規模な平面掘削 |
工法の選定では、掘削深さ・平面形状・地質条件・地下水位・周辺環境の5要素を考慮します。特に市街地では、周辺地盤の変位・沈下が近隣建物に影響するため、より安全側の工法を選定する必要があります。
地山の種類別チェックリスト、土留め支保工の点検表をAnzenAIで作成・管理できます。現場の安全書類作成を効率化しましょう。
AnzenAIを無料で試す 機能を確認する掘削面の高さが2m以上になる地山の掘削作業では、「地山の掘削及び土止め支保工作業主任者技能講習」を修了した者から作業主任者を選任する義務があります(安衛法第14条、安衛令第6条第9号・第10号)。
土留め支保工を設けた後の点検は、安衛則第373条に基づき実施します。点検のタイミングと確認項目が法令で明確に定められています。
| タイミング | 根拠 | 備考 |
|---|---|---|
| 7日以内ごと | 安衛則第373条 | 土留め支保工を設けた後、7日を超えない期間ごとに定期点検 |
| 中震(震度4)以上の地震後 | 安衛則第373条 | 地震発生後、作業再開前に必ず点検 |
| 大雨等の後 | 安衛則第373条 | 地山が急激に軟弱化するおそれがある場合 |
| 毎日の作業開始前 | 安衛則第358条 | 作業主任者による掘削面の状態・湧水の確認 |
以下のチェックリストは、掘削工事の着手前・施工中・点検時に使用できます。地山の種類に応じた確認項目を整理しています。そのままコピーして現場帳票に転記可能です。
| 確認 | 確認項目 | 判定基準 |
|---|---|---|
| □ | 地質調査結果(ボーリングデータ等)の確認 | 地山の種類・地下水位を特定済み |
| □ | 掘削計画書の作成・承認 | 掘削深さ・勾配・工法を記載済み |
| □ | 地山掘削作業主任者の選任・掲示 | 技能講習修了者を選任し氏名を掲示 |
| □ | 埋設物(ガス・水道・電気・通信)の事前調査 | 管理者への照会・試掘を実施済み |
| □ | 土留め支保工の設計図・施工図の確認 | 構造計算に基づく設計が完了 |
| □ | 地下水排水工法の計画 | 必要に応じてウェルポイント等を計画 |
| □ | 周辺構造物への影響評価 | 近接度判定を実施し対策を決定 |
| □ | 関係作業員への安全教育の実施 | 掘削作業の危険性・退避方法を周知 |
| 確認 | 地山の種類 | 確認項目 | 判定基準 |
|---|---|---|---|
| □ | 岩盤・堅い粘土 | 亀裂の有無を確認 | 亀裂がある場合は「その他の地山」基準を適用 |
| □ | 5m以上の掘削面は勾配75度以下を確認 | 測定器具で実測 | |
| □ | 岩石の浮き・剥離の有無を確認 | ハンマーテスト等で打音確認 | |
| □ | その他の地山 (風化岩・粘土・礫混じり土) |
2m以上の掘削面は勾配75度以下を確認 | 測定器具で実測 |
| □ | 含水比の変化(降雨後の軟弱化)を確認 | 目視・触感で含水状態を判定 | |
| □ | 掘削面高さ2m以上で土留め設置の要否判定 | 土質に応じて土留め設置を判断 | |
| □ | 砂からなる地山 | 掘削面の勾配35度以下を確認 | 勾配計で実測 |
| □ | 湧水の有無・ボイリング兆候を確認 | 掘削底面からの噴砂がないこと | |
| □ | 振動(重機走行・杭打ち等)による液状化兆候の確認 | 地盤の揺れ・沈下がないこと | |
| □ | 崩壊しやすい地山 (発破後等) |
掘削面の勾配45度以下を確認 | 勾配計で実測 |
| □ | 掘削面の高さ2m未満を確認 | スケール等で実測 | |
| □ | 全種類共通 | 掘削面の肩に土砂・資材が置かれていないこと | 掘削面の肩から2m以内に重量物なし |
| □ | 全種類共通 | 掘削箇所と積込み箇所の間隔が十分であること | 重機の旋回範囲外に作業員を配置 |
| □ | 全種類共通 | 関係者以外の立入禁止措置 | バリケード・看板を設置済み |
| 確認 | 点検項目 | 判定基準 | 頻度 |
|---|---|---|---|
| □ | 切梁の損傷・変形の有無 | 目視で亀裂・座屈・著しいたわみがないこと | 7日以内ごと |
| □ | 腹起しの損傷・変形の有無 | 土留め壁との密着状態を確認 | 7日以内ごと |
| □ | 火打ちの損傷・変形の有無 | 接合部のボルトの緩み・脱落がないこと | 7日以内ごと |
| □ | 切梁の緊圧(プレロード)の状態 | ジャッキに緩みがないこと | 7日以内ごと |
| □ | 部材接続部・取付部・交差部の状態 | ボルト・ピンの緩み・脱落がないこと | 7日以内ごと |
| □ | 部材の腐食の有無 | 著しい腐食による断面欠損がないこと | 7日以内ごと |
| □ | 部材の変位・脱落の有無 | 設計位置からのずれがないこと | 7日以内ごと |
| □ | 湧水の状態変化 | 新たな湧水・水量増加・濁りの変化がないこと | 毎日 |
| □ | 周辺地盤のクラック・沈下・隆起 | 目視確認。計測管理値以内であること | 毎日 |
| □ | 排水設備の稼働状況 | ポンプ・ウェルポイントが正常稼働 | 毎日 |
※ 中震(震度4)以上の地震後、大雨等で地山の急激な軟弱化のおそれがある場合は臨時点検を実施(安衛則第373条)
現場の状況を入力すると、AIがリスク評価と対策を自動生成します。
掘削工事の安全管理は、チェックリストの作成・点検記録の保管・作業計画書の整備など書類業務が多岐にわたります。デジタルツールを活用し、記録の抜け漏れを防止することが実務上有効です。
掘削作業計画書、KY表、土留め点検記録、新規入場者教育記録をAIが自動生成。地山の種類に応じたリスク項目の提案機能も搭載。書類作成時間を大幅に短縮できます。
AI安全書類自動生成ツールを見るAnzenAIなら、地山の種類を入力するだけで対応するチェックリストと作業計画書を自動生成。現場ごとのカスタマイズも簡単です。
無料でチェックリストを作成する本記事の要点を整理します。
掘削工事の安全は、地山の種類を正しく判定するところから始まります。判定を誤れば、掘削勾配の基準も土留め工法の選定も根拠を失います。ボーリングデータの確認、試掘時の観察、降雨後の再判定を怠らず、基準に基づいた対策を一つひとつ積み上げることが、崩壊ゼロへの確実な道筋です。