工種別安全

掘削・土留め工事の崩壊防止
【地山の種類別チェックリスト】

2026年3月7日  |  読了目安 約10分  |  対象:安全管理者・現場監督

掘削工事における土砂崩壊は、建設業で最も重篤化しやすい災害の一つです。生き埋めによる死亡事故は、発生件数こそ墜落・転落より少ないものの、一度起きれば致死率が極めて高い点が特徴です。

崩壊を防ぐためには、地山の種類に応じた掘削勾配の設定、土留め支保工の適切な設計・施工、そして日常の点検が不可欠です。しかし現場では「この土質ならどこまで掘っていいのか」「点検で何を見ればいいのか」が曖昧なまま作業が進むケースが後を絶ちません。

本記事では、安衛則が定める地山の種類別の掘削基準土留め支保工の点検項目を、コピペで使えるチェックリスト付きで解説します。

目次
  1. 掘削工事における崩壊災害の実態
  2. 地山の種類と掘削勾配の基準(安衛則第356条)
  3. 土留め支保工の設計・施工の要点
  4. 地山掘削作業主任者の選任と職務
  5. 点検基準と実施タイミング
  6. コピペ可能:地山種類別チェックリスト
  7. 安全管理を効率化するツール

掘削工事における崩壊災害の実態

令和6年(2024年)の建設業における死亡者数は232人です。このうち「崩壊・倒壊」による死亡災害は土木工事を中心に毎年一定数発生しており、特に掘削中の土砂崩壊による生き埋め事故は重篤化率が際立ちます。

232
建設業 死亡者数(令和6年)
41%
土木工事死亡災害に占める崩壊の割合
生き埋め事故の致死率

出典:厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」(令和7年5月公表)、建設業労働災害防止協会

労働安全衛生総合研究所の分析によれば、溝掘削工事での土砂崩壊災害は「掘削深さ1.5m未満の浅い溝」でも発生しています。浅いから安全という思い込みが、被災の直接原因になるケースが繰り返されています。

浅い掘削でも油断は禁物
掘削深さ1.5m未満であっても、砂質地山や含水比の高い地山では崩壊リスクが存在します。法令上の土留め設置義務がない深さでも、地山の状態に応じた対策が求められます。

地山の種類と掘削勾配の基準(安衛則第356条)

労働安全衛生規則第356条は、手掘りによる地山の掘削作業において、地山の種類と掘削面の高さに応じた勾配基準を定めています。この基準を超える勾配での掘削は、法令違反であると同時に崩壊災害の直接原因です。

安衛則第356条(掘削面のこう配の基準)要旨
事業者は、手掘りにより地山の掘削の作業を行うときは、掘削面のこう配を次の表の上欄に掲げる地山の種類及び同表の中欄に掲げる掘削面の高さに応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる値以下としなければならない。

手掘りの場合の掘削勾配基準

地山の種類 掘削面の高さ 掘削面の勾配
岩盤または堅い粘土
(亀裂のないもの)
5m未満 90度以下
5m以上 75度以下
その他の地山
(風化岩、粘土、礫混じり土等)
2m未満 90度以下
2m以上5m未満 75度以下
砂からなる地山 5m未満 35度以下
発破等で崩壊しやすい状態の地山 2m未満 45度以下

出典:労働安全衛生規則 別表第318号(手掘りの場合)

機械掘削の場合の掘削勾配基準(安衛則第357条)

地山の種類 掘削面の高さ 掘削面の勾配
岩盤または堅い粘土 制限なし 90度以下
その他の地山 2m未満 90度以下
2m以上5m未満 75度以下
砂からなる地山 制限なし 35度以下
発破等で崩壊しやすい状態の地山 制限なし 45度以下
地山の種類の判定が最重要
掘削勾配の基準を適用するには、まず地山の種類を正しく判定する必要があります。ボーリング調査結果、試掘時の土質観察、含水状態を総合的に評価し、作業主任者と協議して決定してください。雨天後は地山の状態が変化するため、再判定が必要です。

土留め支保工の設計・施工の要点

掘削深さが1.5m以上になる場合、「建設工事公衆災害防止対策要綱」により土留め工の設置が求められます。安衛則第361条も、地山の崩壊や土石の落下により危険が生じるおそれがあるときは、土留め支保工の設置等の措置を義務付けています。

土留め工法の分類と選定基準

工法 概要 適用条件
自立式 土留め壁のみで自立させる工法 掘削深さが浅い場合、良質な地盤
切梁式 腹起し・切梁で土留め壁を支持 最も一般的。中程度の深さの掘削
アンカー式 グラウンドアンカーで土留め壁を支持 広い掘削面積が必要な場合
アイランド式 中央部を先行掘削し、構造物を構築後に周辺を掘削 大規模な平面掘削

工法の選定では、掘削深さ・平面形状・地質条件・地下水位・周辺環境の5要素を考慮します。特に市街地では、周辺地盤の変位・沈下が近隣建物に影響するため、より安全側の工法を選定する必要があります。

土留め支保工の構造上の留意点

地下水対策を軽視しない
砂質地盤でのボイリング(地下水の上向き浸透流により砂が湧き上がる現象)は、土留め壁の崩壊に直結します。地下水位が高い現場では、ディープウェル・ウェルポイント等の排水工法を事前に計画してください。

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地山掘削作業主任者の選任と職務

掘削面の高さが2m以上になる地山の掘削作業では、「地山の掘削及び土止め支保工作業主任者技能講習」を修了した者から作業主任者を選任する義務があります(安衛法第14条、安衛令第6条第9号・第10号)。

作業主任者の職務(安衛則第359条・第375条)

安衛則第358条(地山の掘削作業主任者の選任)要旨
事業者は、掘削面の高さが2メートル以上となる地山の掘削の作業については、地山の掘削及び土止め支保工作業主任者技能講習を修了した者のうちから、地山の掘削作業主任者を選任しなければならない。
作業主任者の氏名・職務を掲示する
選任した作業主任者の氏名と職務内容は、作業場の見やすい場所に掲示しなければなりません(安衛則第18条)。掲示がないまま作業を行うと、それ自体が法令違反になります。

点検基準と実施タイミング

土留め支保工を設けた後の点検は、安衛則第373条に基づき実施します。点検のタイミングと確認項目が法令で明確に定められています。

点検の実施タイミング

タイミング 根拠 備考
7日以内ごと 安衛則第373条 土留め支保工を設けた後、7日を超えない期間ごとに定期点検
中震(震度4)以上の地震後 安衛則第373条 地震発生後、作業再開前に必ず点検
大雨等の後 安衛則第373条 地山が急激に軟弱化するおそれがある場合
毎日の作業開始前 安衛則第358条 作業主任者による掘削面の状態・湧水の確認

点検で確認すべき項目

異常を発見した場合は直ちに補強・補修
安衛則第373条は、点検で異常を認めた場合に「直ちに補強し、又は補修しなければならない」と定めています。「次回の点検まで様子を見る」は許容されません。異常発見時は作業を中止し、補強完了後に再開する手順を徹底してください。

コピペ可能:地山種類別チェックリスト

以下のチェックリストは、掘削工事の着手前・施工中・点検時に使用できます。地山の種類に応じた確認項目を整理しています。そのままコピーして現場帳票に転記可能です。

A:掘削着手前チェックリスト(全地山共通)

確認 確認項目 判定基準
地質調査結果(ボーリングデータ等)の確認 地山の種類・地下水位を特定済み
掘削計画書の作成・承認 掘削深さ・勾配・工法を記載済み
地山掘削作業主任者の選任・掲示 技能講習修了者を選任し氏名を掲示
埋設物(ガス・水道・電気・通信)の事前調査 管理者への照会・試掘を実施済み
土留め支保工の設計図・施工図の確認 構造計算に基づく設計が完了
地下水排水工法の計画 必要に応じてウェルポイント等を計画
周辺構造物への影響評価 近接度判定を実施し対策を決定
関係作業員への安全教育の実施 掘削作業の危険性・退避方法を周知

B:地山の種類別 掘削施工時チェックリスト

確認 地山の種類 確認項目 判定基準
岩盤・堅い粘土 亀裂の有無を確認 亀裂がある場合は「その他の地山」基準を適用
5m以上の掘削面は勾配75度以下を確認 測定器具で実測
岩石の浮き・剥離の有無を確認 ハンマーテスト等で打音確認
その他の地山
(風化岩・粘土・礫混じり土)
2m以上の掘削面は勾配75度以下を確認 測定器具で実測
含水比の変化(降雨後の軟弱化)を確認 目視・触感で含水状態を判定
掘削面高さ2m以上で土留め設置の要否判定 土質に応じて土留め設置を判断
砂からなる地山 掘削面の勾配35度以下を確認 勾配計で実測
湧水の有無・ボイリング兆候を確認 掘削底面からの噴砂がないこと
振動(重機走行・杭打ち等)による液状化兆候の確認 地盤の揺れ・沈下がないこと
崩壊しやすい地山
(発破後等)
掘削面の勾配45度以下を確認 勾配計で実測
掘削面の高さ2m未満を確認 スケール等で実測
全種類共通 掘削面の肩に土砂・資材が置かれていないこと 掘削面の肩から2m以内に重量物なし
全種類共通 掘削箇所と積込み箇所の間隔が十分であること 重機の旋回範囲外に作業員を配置
全種類共通 関係者以外の立入禁止措置 バリケード・看板を設置済み

C:土留め支保工 定期点検チェックリスト

確認 点検項目 判定基準 頻度
切梁の損傷・変形の有無 目視で亀裂・座屈・著しいたわみがないこと 7日以内ごと
腹起しの損傷・変形の有無 土留め壁との密着状態を確認 7日以内ごと
火打ちの損傷・変形の有無 接合部のボルトの緩み・脱落がないこと 7日以内ごと
切梁の緊圧(プレロード)の状態 ジャッキに緩みがないこと 7日以内ごと
部材接続部・取付部・交差部の状態 ボルト・ピンの緩み・脱落がないこと 7日以内ごと
部材の腐食の有無 著しい腐食による断面欠損がないこと 7日以内ごと
部材の変位・脱落の有無 設計位置からのずれがないこと 7日以内ごと
湧水の状態変化 新たな湧水・水量増加・濁りの変化がないこと 毎日
周辺地盤のクラック・沈下・隆起 目視確認。計測管理値以内であること 毎日
排水設備の稼働状況 ポンプ・ウェルポイントが正常稼働 毎日

※ 中震(震度4)以上の地震後、大雨等で地山の急激な軟弱化のおそれがある場合は臨時点検を実施(安衛則第373条)

チェックリストの活用方法
上記のチェックリストは、そのままコピーして現場の安全管理帳票に貼り付けて使用できます。点検結果は日付・点検者・異常の有無を記録し、3年間保管してください。AnzenAIを使えば、これらの帳票をデジタルで管理・自動生成することも可能です。

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安全管理を効率化するツール

掘削工事の安全管理は、チェックリストの作成・点検記録の保管・作業計画書の整備など書類業務が多岐にわたります。デジタルツールを活用し、記録の抜け漏れを防止することが実務上有効です。

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まとめ:地山を正しく見極め、基準に基づいた対策を徹底する

本記事の要点を整理します。

掘削工事の安全は、地山の種類を正しく判定するところから始まります。判定を誤れば、掘削勾配の基準も土留め工法の選定も根拠を失います。ボーリングデータの確認、試掘時の観察、降雨後の再判定を怠らず、基準に基づいた対策を一つひとつ積み上げることが、崩壊ゼロへの確実な道筋です。

参考法令・資料