解説記事

型枠工事の安全対策
【支保工・解体作業のリスク管理】

2026年3月4日  |  AnzenAI編集部  |  約10分で読めます

型枠工事は建設現場の躯体工程において欠かせない工種ですが、支保工の倒壊やコンクリート打設中の崩壊、解体作業中の墜落など、重大災害につながるリスクが複数潜んでいます。厚生労働省の統計(令和6年確定値)によると、建設業の死亡者数は232人にのぼり、全産業の中で最多水準が続いています。型枠工事に関わる現場監督として、法令が求める安全措置を正確に把握し、実作業に落とし込むことが急務です。

本記事では、型枠支保工の組立・点検・解体の各段階で求められる安全対策を、労働安全衛生規則の条文根拠とともに整理します。チェックリストや具体的な手順も示しますので、朝礼資料や安全計画書の作成にもお役立てください。

目次
  1. 型枠工事に潜む主なリスクと災害傾向
  2. 型枠支保工に関する法令の基本
  3. 支保工の組立における安全対策
  4. コンクリート打設時の点検と安全措置
  5. 解体作業の手順と安全管理
  6. 作業主任者の職務と現場監督の確認事項
  7. 安全書類の作成効率化に使えるツール

型枠工事に潜む主なリスクと災害傾向

型枠工事における労働災害は、大きく次の3類型に分類されます。第一は支保工・型枠の倒壊・崩壊、第二は組立・解体作業中の墜落・転落、第三は解体部材や落下物による飛来・落下です。

232
建設業の死亡者数(令和6年確定値)
1
全産業中、建設業が死亡者数で最多
約50%
建設業死亡の事故型・墜落転落が占める割合

出典:建設業労働災害防止協会「建設業における労働災害発生状況(令和6年確定値)」/厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」(2025年5月公表)

型枠支保工の倒壊は、ひとたび発生すると多数の作業員を巻き込む重大災害に直結します。過去の事故事例(失敗知識データベース等)では、「組立図と異なる部材配置」「水平つなぎに規定外のクランプを使用」「支柱の座屈耐力不足」といった施工上の不備が倒壊原因として繰り返し指摘されています。現場監督として見逃せないポイントです。

特に注意が必要な場面
コンクリートの打設速度が速い場合、型枠への側圧が急増します。1層の打設高さが高すぎる、または打設速度が速すぎると、型枠が側圧に耐えられず崩壊するケースがあります。打設計画段階での側圧計算と速度管理が不可欠です。

型枠支保工の安全基準は、労働安全衛生規則(安衛則)第237条〜第247条に規定されています。現場監督として最低限把握しておくべき条文の概要は以下のとおりです。

条文 規制内容 現場での対応
第237条 材料の基準(著しい損傷・変形・腐食のある材料の使用禁止) 入場前に全部材の外観検査を実施する
第238条 鋼材のJIS適合義務(支柱・梁に使用する鋼材) 材料証明書でJIS適合を確認する
第239条 構造の安全性(型枠の形状・コンクリート打設方法・荷重に応じた設計) 構造計算書と組立図の整合を確認する
第240条 組立図の作成義務(支柱・梁・つなぎ・筋かいの配置・接合・寸法を明記) 組立図を全作業員に周知し、現場に掲示する
第242条 支保工設置の届出(高さ3.5m以上の場合、着工30日前までに監督署に届出) 設置届を作成し、余裕を持って提出する
第244条 コンクリート打設中の点検義務(作業開始前および打設中の定期点検) 点検チェックリストを作成・記録する
第245条 悪天候時の作業禁止・立入禁止区域の設定 悪天候基準を作業計画書に明記する
【法令】労働安全衛生規則 第242条(設置の届出)
事業者は、型わく支保工の設置について、支柱の高さが3.5メートル以上のものについては、その工事の開始の日の30日前までに、型わく支保工設置届を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

高さ3.5m以上の型枠支保工は届出対象であることを確認してください。届出の際は、構造計算書・組立図・使用材料の仕様書等を添付する必要があります。届出が遅れると着工自体が遅延するため、施工計画の初期段階から手配を進めることが重要です。

支保工の組立における安全対策

支保工の組立作業は、高所作業と部材の取り扱いが複合するため、墜落・転落と挟まれ・倒壊の両方のリスクが生じます。以下の対策を組立開始前から実施してください。

組立前の確認事項

組立作業中の主な安全措置

支保工の組立では、支柱の座屈防止と水平方向の安定性確保が特に重要です。安衛則が規定する主な構造上の要件は次のとおりです。

部材・部位 安衛則の要求事項
支柱(鋼管支柱) 高さ2m以内ごとに水平つなぎを設け、水平つなぎの変位を防止する措置を講じること
水平つなぎ 直交クランプで緊結すること(根がらみクランプの代用は不可)
筋かい 組立図に記載された位置・角度で取り付け、省略しないこと
鋼管枠支柱 最上層および5層以内ごとに水平つなぎを設けること。設計荷重の2.5%相当の水平力に対して安全な構造とすること
支柱の継手 突合せ継手または差込み継手とすること
根がらみクランプと直交クランプの違い
根がらみクランプは単管を「固定せずに保持する」ためのクランプで、緊結力が直交クランプより大幅に低い設計です。水平つなぎに根がらみクランプを誤用すると、コンクリート打設時の側圧による横方向の力に耐えられず、支保工全体が横にずれて倒壊するリスクがあります。過去の崩壊事例でも本件が繰り返し原因として挙げられています。部材を受け取る際に種別を目視確認する習慣を現場に根付かせてください。

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コンクリート打設時の点検と安全措置

コンクリートの打設は、型枠工事における最大のリスクフェーズです。打設中に型枠への側圧が急増するため、支保工の変形・移動・沈下が発生しやすくなります。安衛則第244条は、打設作業中の定期的な点検を義務付けています。

【法令】労働安全衛生規則 第244条(点検)
事業者は、コンクリートの打設の作業を行う場合において、その日の作業を開始する前に、当該作業に係る型わく支保工について点検し、異状を認めたときは、補修し、又はその他必要な措置を講じなければならない。

打設前・打設中の点検チェックリスト

側圧管理のポイント

コンクリートの側圧は、打設速度・コンクリートの温度・打設高さによって変動します。特に冬季は硬化速度が低下するため、側圧が高い状態が長時間続くことに注意が必要です。以下の管理基準を目安としてください。

管理項目 一般的な管理基準 注意点
打設速度 壁:0.5〜1.0 m/h以下を目安に計画 速度超過は側圧急増につながる
1層の打設高さ 内部振動機使用時:40〜50cm以下 過大層厚はバイブレーター挿入不可になる
コンクリート温度 5〜35℃の範囲で管理 低温時は硬化が遅れ、側圧が長引く
打設時の監視 打設中は専任の点検者を常時配置 異常を検知したら即打設を停止する
打設中断・中止の判断基準
点検中に次のいずれかを確認した場合は、打設を即時停止して安全措置を講じてください。(1)支柱の目視可能な傾き・沈下、(2)水平つなぎの変形・外れ、(3)型枠継目からの大量のモルタル漏れ、(4)異音(きしみ音・破裂音)の発生。打設を再開する場合は補修完了と安全確認を徹底してから行ってください。

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解体作業の手順と安全管理

型枠・支保工の解体は、コンクリートが必要な強度に達した後に行います。「打設が終わったから早く外す」という現場の焦りが重大事故につながることが少なくありません。解体作業に入る前に、コンクリート強度の確認と安全手順の確立が不可欠です。

解体可能な条件(コンクリート強度の確認)

型枠支保工を存置すべき期間は、建築基準法施行令および仕様書の規定に基づきます。現場での実務的な判断基準として、圧縮強度試験(コア採取または現場養生供試体)の結果を用いる場合の目安は次のとおりです。

部位 圧縮強度の目安 備考
スラブ下(支保工) 設計基準強度の85%以上、かつ12N/mm²以上 短期荷重に対する安全確認も必要
梁下(支保工) 設計基準強度(Fc)以上 梁スパンが大きい場合は構造設計者と協議
壁・柱(側型枠) 5N/mm²以上(普通コンクリートの場合) 表面が傷つかない程度の硬化が確認できること
強度確認は書面で記録する
解体可能と判断した根拠(試験日・試験値・判定基準)を書面に残してください。万一の事故発生時に、適切な手続きを踏んでいたことを証明する記録となります。強度試験を省略したり、感覚的に「もう大丈夫だろう」と判断したりすることは厳禁です。

解体作業の手順と安全措置

  1. 1
    作業計画の作成と周知
    解体範囲・手順・使用機材・作業員配置を明記した作業計画書を作成し、作業開始前に全員へ周知する。作業主任者を中心にTBM(ツールボックスミーティング)で危険源を共有する。
  2. 2
    立入禁止区域の設定
    解体作業範囲の下部および周囲に立入禁止区域を設定し、バリケード・標識で明示する。資材の落下範囲を考慮した余裕を持った設定が必要。
  3. 3
    上部足場・安全帯の確認
    解体作業者の転落防止のため、作業床または安全帯の使用を徹底する。高さ2m以上の作業ではフルハーネス型安全帯の使用が推奨される。
  4. 4
    解体順序の遵守(上から下へ)
    型枠・支保工は組立と逆の順序で解体する。上部部材から先に外すことで荷重バランスが保たれ、予期しない倒壊を防止できる。特に梁下支保工は最後まで存置すること。
  5. 5
    解体部材の速やかな取り片付け
    解体した型枠パネルや支柱は即座に整理し、作業床上の散乱を防ぐ。踏み抜きや躓きによる転落事故を防止するため、デッキや仮設床の状態を随時確認する。
  6. 6
    解体後の記録と確認
    解体完了後、コンクリート構造体に亀裂・欠損・著しい変色がないかを確認し、写真記録を残す。異常があれば構造設計者や監理者に報告する。
解体中の再打設・荷重増加に注意
解体中または解体後すぐに上階のコンクリート打設が行われる場合、残置している支保工にその荷重が加算されます。支保工が全解体される前に上階への荷重が加わると、強度不足による崩壊が発生する可能性があります。工程計画の段階で上下階の打設タイミングを調整し、構造設計者の確認を得てください。

作業主任者の職務と現場監督の確認事項

型枠支保工の組立または解体作業を行う場合、事業者は「型枠支保工の組立て等作業主任者技能講習」を修了した者の中から作業主任者を選任しなければなりません(安衛法第14条・安衛令第6条第14号)。作業主任者の選任を怠ると、労働安全衛生法違反となります。

作業主任者の主な職務

現場監督が確認すべき書類・記録

書類・記録 タイミング 確認ポイント
型わく支保工設置届 設置着工30日前まで 届出受理証の有無(高さ3.5m以上)
組立図 組立開始前 構造計算との整合・全作業員への周知
作業主任者選任書 作業開始前 氏名・資格証明書の確認・現場掲示
点検記録票 打設前・打設中・打設後 点検者氏名・点検項目・異常の有無
コンクリート強度試験結果 解体判断前 試験日・試験値・判定基準値との比較
解体作業計画書 解体着手前 手順・危険源・対策・担当者の記載
現場監督としての実践ポイント
書類の整備と記録の保存は、万一の事故時に法的責任を問われる場面での重要な証拠となります。また、建設業労働災害防止協会(建災防)が提供する安全衛生教育資料や事故事例集も積極的に活用してください。繰り返し起きている事故パターンを事前に学ぶことが、現場での気づきに直結します。

安全書類の作成効率化に使えるツール

型枠工事の安全管理では、設置届・作業計画書・点検記録・リスクアセスメントなど、多種多様な書類の整備が求められます。これらを手作業で作成するのは現場監督の大きな負担です。以下のツールを活用することで、書類作成の効率を大幅に改善できます。

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まとめ:型枠工事の安全対策は「計画・点検・記録」の徹底から

型枠工事の安全管理において、特に重要なポイントを改めて整理します。

建設業全体の死亡災害防止に向けて、第14次労働災害防止計画(令和5〜9年度)では令和4年比で令和9年までに死亡者数を15%以上削減する目標が掲げられています。型枠工事に関わる現場監督一人ひとりが法令要件を正しく理解し、確実に実行することが、この目標達成と作業員の命を守ることに直結します。

参考資料・出典
・厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」(2025年5月公表)
・建設業労働災害防止協会「建設業における労働災害発生状況(令和6年確定値)」
・労働安全衛生規則 第237条〜第247条(型わく支保工)
・厚生労働省「型わく支保工 事前チェックリスト」(富山労働局)
・建設業労働災害防止協会「第8章 型枠支保工、足場等の倒壊等による危険の防止 解説」
・建設業労働災害防止協会「第14次建設業労働災害防止計画(令和5〜9年度)」