コンクリート打設工事は、ポンプ車の転倒、配管閉塞による吹き出し、型枠支保工の崩壊など重篤災害に直結するリスクを複数抱えています。打設当日はコンクリートの品質管理に意識が集中しがちですが、安全管理を後回しにすると取り返しのつかない事態を招きます。
全国コンクリート圧送事業団体連合会(全圧連)の公表事例では、ブーム折損による下敷き事故、ホッパ内のアジテータへの巻き込み、配管接続部の吹き出しによる激突事故が繰り返し報告されています。
本記事では、コンクリートポンプ車のブーム操作、配管閉塞時の対処、型枠支保工の荷重確認、打設作業員の配置の4項目を軸に、現場でそのまま使えるチェックリストを提示します。
コンクリート打設工事で多い災害パターン
コンクリート打設に関連する労働災害は、発生件数こそ墜落・転落に比べると少ないものの、1件あたりの重篤度が高い傾向にあります。主な災害パターンを把握し、事前の対策に落とし込むことが現場監督の責務です。
出典:日本建設機械施工協会、全国コンクリート圧送事業団体連合会(全圧連)
| 災害パターン |
発生状況 |
想定される被害 |
| ポンプ車の転倒 |
アウトリガの張り出し不足、軟弱地盤への設置 |
車体・ブームの倒壊による圧死 |
| ブーム折損・落下 |
ブーム根元付近の疲労破壊、過荷重操作 |
先端部の落下による下敷き |
| 配管閉塞・吹き出し |
管内圧力上昇後の接続部離脱 |
ホイッピング現象による激突 |
| ホッパ巻き込み |
スクリーン開放状態でのホッパ内清掃 |
アジテータへの巻き込まれ |
| 型枠支保工の崩壊 |
打設荷重による支柱の座屈・沈下 |
作業員の墜落・埋没 |
| 開口部からの墜落 |
打設作業中の養生材踏み抜き |
階下への墜落 |
宮崎労基署の送検事例
ポンプ車のブームが作業員に激突し死亡した事案では、元請と下請の双方が労働安全衛生法違反で送検されました。作業計画書の未作成、ブーム旋回範囲内の立入禁止措置の不備が指摘されています。
ポンプ車の設置・ブーム操作の安全管理
コンクリートポンプ車の災害を防ぐには、設置段階とブーム操作段階の両方で安全措置を徹底する必要があります。労働安全衛生規則第171条の2および第172条の2・3が、ポンプ車固有の措置を定めています。
設置時の確認事項
-
1
地盤の確認と養生
乗入構台やコンクリート舗装以外の地盤では、敷鉄板で地面を養生・補強する。軟弱地盤への直置きは転倒の直接原因になる。
-
2
アウトリガの最大張り出し
アウトリガは原則として最大張り出しで設置する。やむを得ず張り出しを縮小する場合は、ブーム作業範囲をその安定度に応じて制限する。
-
3
車体の水平確認
ジャッキで車体の水平角度を前後左右3度以内に調整する。傾斜地ではタイヤに車止めを設置し、浮いたタイヤの下に板や鉄板を敷く。
-
4
周辺環境の確認
架空電線との離隔距離を確認する。ブーム旋回範囲内に立入禁止区域を設定し、誘導員を配置する。
ブーム操作時のルール
- ブーム操作は周囲の状況とブーム先端を目視で確認しながら行う
- ブーム先端の振幅は60cm以下を維持する
- ブームの下を作業員が通り抜けることを禁止する
- 強風時(10分間平均風速10m/s以上)はブーム操作を中止する
- 操作者と筒先作業員の間で合図を統一し、無線等で連絡体制を確保する
安衛則第171条の2(コンクリートポンプ車の作業計画)
事業者はコンクリートポンプ車を用いて作業を行うときは、あらかじめ作業計画を定め、関係労働者に周知しなければならない。計画には機械の種類・能力、運行経路、作業方法を含む。
配管閉塞・ホイッピングへの対処
圧送中の輸送管内では、生コンクリートが高い機械的圧力で押し運ばれています。配管が閉塞すると管内に圧縮空気が蓄積し、接続部を外した瞬間に圧縮空気とコンクリートが一気に噴出します。この際にホースが暴れ回る現象を「ホイッピング」と呼び、激突による死亡事故が複数報告されています。
閉塞発生時の対処手順
-
1
直ちに圧送を停止する
圧力計や吐出量の異常を感知したら、即座にポンプを停止する。無理な加圧は絶対に行わない。
-
2
管内の残圧を確認する
圧送停止後もしばらく管内に圧力が残留する。圧力が十分に低下するまで配管に触れない。
-
3
閉塞箇所の特定と周囲の退避
配管の外側を軽く叩いて閉塞箇所を特定する。接続部を外す際は、周囲の作業員を退避させ、解放方向に人がいないことを確認する。
-
4
配管の点検と再接続
閉塞原因(配管の変形・凹み・穴あき)を確認し、損傷した配管は交換する。清掃後に再接続し、低圧で試運転する。
閉塞時の禁止事項
管内に圧力が残った状態での配管接続部の取り外しは厳禁です。全圧連の事故事例では、残圧を確認せずにクランプを外した直後にホースが暴れ、作業員が激突を受けた重大事故が報告されています。
打設前チェックリストをAIで自動生成
コンクリート打設の安全管理項目をAnzenAIが自動でリスト化。現場条件に応じた作業計画書・KY表も即時作成できます。
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型枠支保工はコンクリートの自重と打設時の衝撃荷重を支える仮設構造物です。打設中に支柱が座屈するとスラブごと崩落し、作業員が階下に墜落する重大災害につながります。パイプサポートの座屈による崩壊事故では、スラブが抜け落ちて6名が階下に墜落した事例が報告されています。
打設前の型枠支保工点検
- 支柱の沈下防止:敷板の設置状況、地盤の支持力を確認する
- 脚部の滑動防止:根がらみ、ベース金具の固定状態を確認する
- 支柱の継手:突合わせ継手・差込継手の適正な接合を確認する
- 水平つなぎ:2方向の水平つなぎの取付け間隔と固定状態を確認する
- 鋼材の接合:ボルト・クランプ等の金具の締付け状態を確認する
- 曲面型枠:浮き上がり防止措置(押さえ金具・アンカー)を確認する
安衛則第244条(型枠支保工の点検)
事業者は、型枠支保工を組み立てたときは、打設前に点検し、異常を認めたときは補修しなければならない。打設中に異状が認められたときは、作業を中止しなければならない。
打設中の監視体制
- 打設中は型枠支保工の変形・たわみ・異音を常時監視する専任者を配置する
- 打設速度を計画値以内に管理し、局所的な過荷重を防ぐ
- 異常を発見した場合は直ちに打設を中止し、全作業員を退避させる
- 打設順序(中央から端部へ、対称に)を遵守し、偏荷重を避ける
型枠支保工の点検は「打設前」が最後の砦
打設が始まると修正は不可能です。打設前の点検で支柱の傾き・継手の緩み・水平つなぎの脱落を発見し、是正を完了してから打設を開始してください。
打設作業員の配置と墜落防止
コンクリート打設作業では、筒先作業員・バイブレータ操作員・均し作業員など複数の作業者が同時に作業します。作業員の配置と動線を事前に計画し、墜落・転落リスクを排除することが不可欠です。
作業員の役割と配置
| 役割 |
主な作業内容 |
安全上の留意点 |
| 筒先作業員 |
ホースの筒先を操作し打設箇所を制御 |
ホースの反動による転倒防止、2人以上で保持 |
| バイブレータ操作員 |
棒状バイブレータで締固め作業 |
感電防止(漏電遮断器)、電源ケーブルの踏み損傷防止 |
| 均し・仕上げ作業員 |
コンクリート表面の均し・仕上げ |
開口部・端部からの墜落防止、足場の確保 |
| 型枠監視員 |
型枠支保工の変形・異音を監視 |
異常発見時の打設中止判断権限の付与 |
| 誘導員 |
ポンプ車・ミキサ車の誘導 |
車両動線と歩行者動線の分離 |
墜落防止対策
- 開口部には手すり・覆い蓋を設置し、テープ等で位置を明示する
- スラブ端部・階段開口部では墜落制止用器具(フルハーネス)を使用する
- 打設範囲と通路を区分し、作業員の動線を確保する
- 夜間打設の場合は投光器を設置し、150ルクス以上の照度を確保する
コピペ可能:打設前・打設中チェックリスト
以下のチェックリストは、そのままコピーして現場で使用できます。打設前に全項目を確認し、不備がある場合は是正が完了するまで打設を開始しないでください。
打設前チェックリスト
| No. |
確認項目 |
確認欄 |
| 1 |
ポンプ車の設置地盤は堅固か(敷鉄板の設置) |
□ |
| 2 |
アウトリガは最大張り出しで固定されているか |
□ |
| 3 |
車体の水平角度は前後左右3度以内か |
□ |
| 4 |
タイヤに車止めが設置されているか |
□ |
| 5 |
架空電線との離隔距離は確保されているか |
□ |
| 6 |
ブーム旋回範囲内の立入禁止措置は完了しているか |
□ |
| 7 |
配管の変形・凹み・穴あき・破損はないか |
□ |
| 8 |
配管接続部のクランプは確実に締結されているか |
□ |
| 9 |
ホッパのスクリーンロック装置は正常に作動するか |
□ |
| 10 |
操作者と筒先作業員の合図方法は統一されているか |
□ |
| 11 |
型枠支保工の支柱に沈下・傾きはないか |
□ |
| 12 |
支柱の継手・水平つなぎ・根がらみは適正に固定されているか |
□ |
| 13 |
型枠のボルト・クランプの締付けに緩みはないか |
□ |
| 14 |
開口部に手すり・覆い蓋・明示措置は設置されているか |
□ |
| 15 |
墜落制止用器具の着用と親綱の設置は完了しているか |
□ |
| 16 |
作業員の配置と役割分担はKYミーティングで共有されたか |
□ |
| 17 |
打設順序・打設速度は作業計画書どおりか |
□ |
| 18 |
緊急時の連絡体制と退避経路は周知されているか |
□ |
打設中チェックリスト
| No. |
確認項目 |
確認欄 |
| 1 |
ブーム先端の振幅は60cm以下に収まっているか |
□ |
| 2 |
ブーム直下に作業員が立ち入っていないか |
□ |
| 3 |
配管接続部からの漏れ・異音は発生していないか |
□ |
| 4 |
型枠支保工に変形・たわみ・異音は発生していないか |
□ |
| 5 |
打設速度は計画値以内か(偏荷重が生じていないか) |
□ |
| 6 |
筒先作業員は2人以上でホースを保持しているか |
□ |
| 7 |
開口部の養生材にずれ・損傷は発生していないか |
□ |
| 8 |
バイブレータの電源ケーブルに損傷はないか |
□ |
| 9 |
ミキサ車の進入・退出時に誘導員は配置されているか |
□ |
| 10 |
気象条件(風速・降雨)に変化はないか |
□ |
チェックリストの運用方法
打設前リストは作業開始30分前までに現場監督が全項目を確認し、署名・日付を記入してください。打設中リストは1時間ごとに巡回確認を行い、異常があれば即座に打設中止の判断を行います。
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まとめ
本記事の要点を整理します。
- ポンプ車の設置は「地盤・アウトリガ・水平・離隔」の4点を必ず確認する。アウトリガの張り出し不足と軟弱地盤が転倒事故の主因。
- ブーム操作中は先端振幅60cm以下を厳守し、旋回範囲内の立入禁止を徹底する。ブーム直下の通行は絶対に禁止。
- 配管閉塞時は即座に圧送を停止し、残圧が低下するまで配管に触れない。ホイッピング現象は死亡事故に直結する。
- 型枠支保工は打設前の点検が最後の砦。支柱の沈下・傾き・継手の緩みを確認し、打設中は専任の監視員を配置する。
- 開口部・端部の墜落防止措置と作業員配置を事前に計画する。打設当日の品質管理に意識が偏ると、安全管理が疎かになる。
- チェックリストを活用し、打設前・打設中の安全確認を記録として残す。記録は安全管理の履行を証明する根拠になる。
コンクリート打設は「やり直しが利かない工程」として品質管理が重視されますが、安全管理も同様にやり直しが利きません。本記事のチェックリストを現場に持ち込み、打設前の30分間で全項目を確認する習慣を定着させてください。
参考法令・資料
- 労働安全衛生規則 第171条の2(コンクリートポンプ車の作業計画)
- 労働安全衛生規則 第172条の2・3(コンクリートポンプ車の措置)
- 労働安全衛生規則 第244条(型枠支保工の点検)
- 全国コンクリート圧送事業団体連合会「労働災害の防止」
- 国土交通省「建設工事安全施工技術指針 コンクリート工」
- 厚生労働省「コンクリート圧送施工業務 安全衛生のポイント」
- 富山労働局「型わく支保工 事前チェックリスト」