WBGT(暑さ指数)とは、気温・湿度・輻射熱(日射や地面・機械からの放射熱)の3要素を組み合わせて算出する、熱中症の危険度を示す指標だ。単位は気温と同じ「℃」で表すが、いわゆる気温とは別物で、湿度の影響を約7割、輻射熱と気温をそれぞれ約2割・1割の重みで反映する。建設現場で「気温は30℃だが体感はもっと暑い」と感じる蒸し暑さや炎天下の現場を、数値で客観的に評価できるのがWBGTの強みである。
本記事は建設業の現場監督・職長・元方安全衛生管理者を対象に、WBGTの測定方法(WBGT計の設置・屋外と屋内の違い)、注意・警戒・厳重警戒・危険の区分別基準値、現場での測定頻度・記録・掲示の運用、そして基準値超過時の作業中止・休憩・二人組行動の判断基準までを、環境省・JIS の基準に沿って実務粒度で整理する。2025年6月施行の熱中症対策の改正(労働安全衛生規則)でWBGT 28℃以上などが対応対象作業の判断に関わるため、その関係も解説する。
AnzenAIなら暑熱作業の作業手順書・KY活動表・熱中症予防計画の素案をAIが自動生成。WBGT測定記録の運用ルールづくりと合わせて、夏季の安全書類作成を大幅に短縮できます。
デモを試すWBGTは「Wet Bulb Globe Temperature(湿球黒球温度)」の略で、1950年代にアメリカで熱中症予防のために提案された指標だ。日本ではJIS Z 8504(人間工学—WBGT指数に基づく作業者の熱ストレスの評価)として規格化され、環境省も「熱中症予防情報サイト」で全国の暑さ指数を公開している。気温だけでは表せない「湿度の高さ」「直射日光や地面・機械からの輻射熱」を取り込むことで、人体が受ける熱ストレスをより実態に近い形で評価できる。
WBGTは「湿球温度」「黒球温度」「乾球温度(通常の気温)」の3つを測定して算出する。湿球温度は湿らせたガーゼで覆った温度計が示す値で、湿度と蒸発による冷却を反映する。黒球温度は黒色に塗装した中空の球の中心温度で、日射・輻射熱を反映する。乾球温度は一般的な気温だ。
| 区分 | 計算式 | 反映する要素 |
|---|---|---|
| 屋外(日射あり) | WBGT = 0.7×湿球温度 + 0.2×黒球温度 + 0.1×乾球温度 | 湿度7割・輻射熱2割・気温1割 |
| 屋内(日射なし) | WBGT = 0.7×湿球温度 + 0.3×黒球温度 | 湿度7割・輻射熱3割(乾球温度は使わない) |
出典:JIS Z 8504、環境省「熱中症予防情報サイト」をもとに整理
計算式で最も重みが大きいのは湿球温度(湿度の影響)であることに注目したい。建設現場で「気温はそれほど高くないのに蒸し暑くて危険」という日があるのは、湿度が高くWBGTが跳ね上がっているためだ。気温だけで作業可否を判断すると、この湿度由来の危険を見落とす。WBGTを測ることで、湿度の高い曇りの日や雨上がりの蒸し暑い日のリスクも客観的に評価できる。
環境省・日本生気象学会の「日常生活に関する熱中症予防指針」では、WBGT値を4つの区分に分け、注意喚起の段階を示している。建設現場で運用する際は、この4区分を基準に「どのWBGT値で何をするか」を事前に決めておくのが実務の起点になる。
| WBGT区分 | WBGT値 | 現場での目安と対応 |
|---|---|---|
| 危険 | 31℃以上 | 原則として重作業は中止・延期を検討。実施する場合は短時間・頻回休憩・二人組行動を徹底 |
| 厳重警戒 | 28℃以上31℃未満 | 激しい作業を避け、こまめな休憩と水分・塩分補給を強化。巡視頻度を上げる |
| 警戒 | 25℃以上28℃未満 | 定期的な休憩と水分補給。作業強度の高い作業は特に注意 |
| 注意 | 25℃未満 | 一般に危険性は低いが、激しい作業時は熱中症が起こりうるため留意 |
出典:環境省・日本生気象学会「日常生活に関する熱中症予防指針」をもとに建設業向けに整理。数値は一般的な目安であり、作業強度・暑熱順化の程度・個人差により実際の危険度は変動する
建設現場では「WBGT 28℃以上で厳重警戒、31℃以上で危険」という2つのしきい値を職長・作業員が即答できるレベルまで浸透させたい。朝礼でその日の予測WBGTを共有し、28℃を超える見込みの日は「厳重警戒モード」、31℃を超える見込みの日は「危険モード」と現場の合言葉にすると、判断が現場全体で共有される。
WBGTは環境省サイトの予測値を参考にできるが、現場の実測が原則だ。予測値は地域メッシュの代表値であり、舗装路上・鉄板上・狭隘部・直射日光下といった建設現場特有の高温環境は反映されない。同じ地域でも、コンクリート構造物の輻射熱がこもる現場と風通しの良い更地では、実測WBGTが数℃変わることも珍しくない。
市販のWBGT計(暑さ指数計)には、簡易型(電子センサーで推定値を表示)と、湿球・黒球・乾球の3要素を実測する本格型がある。建設現場では、まず簡易型を作業エリアごとに複数配置し、危険区分に近い数値が出るエリアは本格型で確認する運用が現実的だ。購入時は黒球付きで日射を反映できるタイプを選ぶ。気温と湿度だけから推定する簡易計は、輻射熱の強い現場では値を低めに見積もる場合があるため注意する。
前述のとおり、屋外(日射あり)と屋内(日射なし)でWBGTの計算式は異なる。屋外では乾球温度を1割反映するが、屋内では湿球温度と黒球温度のみで算出する。建設現場は同じ敷地内に「炎天下の屋外作業」と「日射のない建物内・地下作業」が混在することが多いため、作業区分ごとに屋外用・屋内用を使い分ける。トンネル・地下ピット・タンク内など空調のない閉鎖空間は、外気温が低くても内部のWBGTが高くなりやすく、別途実測が欠かせない。
WBGT計は電源投入後すぐには正しい値を示さない。湿球のガーゼを十分に湿らせ、黒球が周囲環境と熱平衡に達するまで、設置から最低でも15〜20分程度は安定化させてから読み取る。測定は作業前(朝)だけでなく、気温・日射がピークに向かう時間帯にも行い、その日の最高WBGTを把握する。
WBGTを測っても、記録・掲示・周知の運用がなければ現場の行動は変わらない。測定値を「全員が見て、判断に使える」状態にするのが運用の肝だ。
| 時間帯 | 測定の目安 | 用途 |
|---|---|---|
| 始業前(朝礼時) | 1回(その日の予測WBGTと併用) | 当日の作業計画・休憩計画の確定 |
| 午前(10〜11時頃) | 1回 | 気温上昇に伴う区分変化の確認 |
| 正午〜午後(13〜15時) | 1〜2回(ピーク帯) | 最高WBGTの把握・中止判断 |
| 区分が変わったとき | 都度 | 厳重警戒→危険など段階が上がった際の即時対応 |
測定頻度は現場規模・作業内容により調整。WBGTが基準値付近で推移する日は頻度を上げる
測定したWBGTは、日付・時刻・測定場所・WBGT値・区分・対応(休憩指示・作業見直し等)をセットで記録に残す。書式は熱中症対策の記録簿や安全日誌に1行追加する形で十分機能する。記録は熱中症が発生した際の状況把握や、安全配慮義務の履行を示す資料としても重要になる。
掲示は「数値を貼る」だけでなく「今日は厳重警戒です」と区分を大書し、その区分で守るべき休憩ルール・水分補給ルールを併記する。現場事務所前・休憩所・各作業エリア入口の3か所程度に掲示し、朝礼で当日の予測区分を口頭でも共有する。協力会社の作業員を含めた全員が「今日のWBGT区分」を把握している状態をつくることが、労災ゼロ・不適合ゼロの暑熱対策の前提となる。
AnzenAIなら熱中症対策の記録簿・休憩サイクル表・暑熱作業のKY活動表の素案を、現場の工種と作業強度に合わせてAIが自動生成。WBGT運用の書面化を効率化できます。
デモを試すWBGTを測る目的は、最終的に「作業を続けるか・休ませるか・止めるか」を判断することにある。基準値を超えたときの行動を、現場であらかじめルール化しておく。
WBGTが警戒(25℃以上)に入ったら、定期的な休憩と水分・塩分補給を確実にする。厳重警戒(28℃以上)に入ったら、激しい作業を避け、休憩頻度を上げ、巡視を強化する。危険(31℃以上)に達したら、原則として重作業の中止・延期を検討し、やむを得ず実施する場合は短時間作業・頻回休憩・二人組行動を徹底する。WBGTの上昇に合わせて対応を「足していく」段階設計が基本だ。
熱中症は本人が異変に気づけないまま重症化することがあるため、暑熱環境下では二人組(バディ)行動を基本とし、互いの体調を声かけで確認し合う。特に高温多湿の閉鎖空間(タンク内・地下ピット・狭隘部)での単独作業は避け、外部に監視者を配置する。WBGTが厳重警戒・危険区分の日は、単独作業を原則禁止する運用が安全側だ。
同じWBGT値でも、暑さに慣れていない作業者(梅雨明け直後・休暇明け・新規入場者)は熱中症リスクが高い。暑熱順化には1〜2週間程度の段階的な慣らしが必要とされ、この期間は同じWBGTでもより慎重な対応が求められる。高齢作業員・持病のある作業員・睡眠不足や前夜の飲酒がある作業員も個別に配慮する。WBGTは環境側の指標であり、人側の要因(順化・体調・年齢)と組み合わせて判断することが重要だ。暑熱順化の進め方は夏季工事の暑熱順化プログラム作成手順も参考にしてほしい。
2025年(令和7年)6月1日に施行された労働安全衛生規則の改正により、職場における熱中症対策が事業者に義務づけられた。この義務化の対象となる作業の判断に、WBGT値が関わってくる点が実務上の重要ポイントだ。
改正では、WBGTがおおむね28℃以上、または気温が一定以上の環境下で、継続して行う作業などを「熱中症のおそれがある作業」と位置づけ、事業者に体制整備・手順策定・関係者への周知などの措置を求める枠組みが導入された。具体的には、熱中症のおそれがある労働者を早期に発見する体制(報告・連絡の仕組み)の整備、熱中症が疑われる場合の対応手順(作業中止・身体冷却・救急要請等)の作成・周知などが柱となる。WBGT 28℃というしきい値は、まさに前述の「厳重警戒」区分の入口に当たる。
建設現場で義務化に対応するには、(1) 作業エリアごとのWBGT測定・記録の運用化、(2) 熱中症のおそれがある労働者を早期発見する報告・連絡体制(職長・現場代理人への即時連絡ルール)、(3) 異変時の対応手順(作業中止・日陰や空調での身体冷却・119番要請の判断者と連絡網)の文書化と周知、の3点が中核となる。これらは労働安全衛生法に基づく安全配慮義務の具体化でもあり、夏季着工前に整備しておきたい。労働安全衛生法の全体像は労働安全衛生法の基礎|目的・体系・建設業の義務を参照のこと。
WBGT運用で建設業の現場担当者が苦労するのは、測定の手間そのものより「記録・手順・周知の書面化」だ。WBGT記録簿、区分別の休憩サイクル表、暑熱作業の作業手順書、熱中症のおそれがある場合の対応手順書、協力会社向け周知文書――義務化対応では揃える書類が増えるが、現場監督は工程・品質・原価管理と並行してこなさなければならない。
AnzenAIは現状、建設業の現場で必要な作業手順書・KY活動表・新規入場者教育資料・リスクアセスメントシートをAIが自動生成する。暑熱対策の文脈では、暑熱作業のKY活動表、熱中症のおそれがある作業の作業手順書、WBGT区分と連動した休憩計画の素案を起案資料として出力できる。AIが起案したベースに、自現場のWBGT測定ルールと工種特性を上書きしていくのが現実的だ。
WBGT測定値の自動記録・区分判定、現場ごとの予測WBGTと連動した当日アラート、義務化対応に必要な手順書テンプレートの自動生成などは開発予定として拡張を計画している。まずはWBGTの測定・記録・掲示という基本運用を固め、その記録をベースに書類を整えていくのが、夏季の労災ゼロ・不適合ゼロに近づく現実的な第一歩となる。
建設業の現場で必要な暑熱作業の手順書・KY活動表・休憩計画・熱中症対応手順を、現場条件と作業強度に合わせてAIが自動生成。夏季の安全書類づくりを大幅に短縮できます。
デモを試すWBGTと気温は何が違うのですか?
気温(乾球温度)は空気の温度だけを示しますが、WBGT(暑さ指数)は気温に加えて湿度と輻射熱(日射・地面や機械からの放射熱)を組み合わせた指標です。屋外では湿度を約7割、輻射熱を約2割、気温を約1割の重みで反映します。気温が同じでも湿度や日射が強ければWBGTは高くなり、熱中症の危険度をより実態に近く評価できます。
WBGT 28℃と31℃の違いは何ですか?
環境省・日本生気象学会の指針では、WBGT 28℃以上31℃未満が「厳重警戒」、31℃以上が「危険」に区分されます。厳重警戒では激しい作業を避けてこまめな休憩・水分補給を強化し、危険では原則として重作業の中止・延期を検討します。建設現場の重作業は同じWBGT値でも危険度が高いため、より慎重な対応が求められます。数値は一般的な目安で、作業強度や暑熱順化により実際の危険度は変動します。
WBGT計はどこに設置すればよいですか?
実際に作業者が作業する場所・高さに設置するのが原則です。日陰の事務所前ではなく、直射日光下・鉄板や舗装の照り返しがある場所・空調のない室内や地下など、最も暑くなる作業位置に設置します。高さは立位作業の腹部付近(床から1.1m前後)が目安です。屋外と屋内では計算式が異なるため、作業区分ごとに測定・算出します。
環境省の予測WBGTだけで判断してはいけませんか?
予測WBGTは参考になりますが、地域メッシュの代表値のため、舗装路上・鉄板上・狭隘部・閉鎖空間といった建設現場特有の高温環境は反映されません。同じ地域でも実測すると数℃高くなることがあります。予測値で当日の計画を立て、現場では作業位置の実測WBGTで最終判断するのが安全側の運用です。
2025年の熱中症対策義務化とWBGTはどう関係しますか?
2025年6月施行の労働安全衛生規則改正では、WBGTがおおむね28℃以上などの環境で継続して行う作業を「熱中症のおそれがある作業」と位置づけ、事業者に早期発見の体制整備や対応手順の作成・周知を求めます。自現場が対象に当たるかを判断するにはWBGTの測定が出発点になります。詳細な適用は所轄の労働基準監督署等にご確認ください。
WBGTは「測る」こと自体が目的ではなく、測った値を記録・掲示し、作業中止・休憩・二人組という具体的な行動判断につなげて初めて意味を持つ。気温だけに頼った判断から、湿度と輻射熱を含むWBGTでの判断へ切り替えることが、夏季の重大災害を防ぐ分かれ目になる。労災ゼロ・不適合ゼロの暑熱対策に近づく第一歩として、まず自現場の作業エリアごとにWBGT計を配置し、区分別の休憩サイクル表を1枚作ることから始めてほしい。