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建設現場の熱中症対策マニュアル
【WBGT基準と応急処置】

公開日:2026年3月4日  |  対象:安全管理者・現場監督

建設現場は、炎天下の屋外作業・熱を持つ機材や鉄骨の近傍・体を酷使する重労働が重なる、熱中症リスクが最も高い職場環境のひとつだ。2024年は全産業の熱中症による死亡者が過去10年で最多水準となり、なかでも建設業は死亡者数が最も多い業種となった。

2025年6月には職場における熱中症対策が罰則付きで義務化された。対策を怠れば6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金という厳しい罰則が設けられており、安全管理者や現場監督が制度の内容を正確に把握しておく必要がある。本記事ではWBGT値に基づく作業管理の基準、水分補給の実践法、対策グッズの選定、応急処置の手順を体系的に解説する。

建設業の熱中症災害の現状

厚生労働省の公表データによると、2024年(令和6年)の熱中症による労働災害(死亡・休業4日以上)は全産業合計で過去10年の最多水準を記録し、死亡者数は30人に達した。そのうち建設業に従事する死亡者の割合が最も高く、業種別ではワーストとなっている。

30
2024年の熱中症死亡者数(全産業)
過去10年最多水準
1
死亡者数が多い業種
建設業が全産業でワースト
2025年6月
職場の熱中症対策が義務化
罰則付きで施行

建設現場で熱中症が多発する背景には、直射日光と輻射熱が重なる高温多湿な作業環境、重い資材の運搬・コンクリート打設などの高強度作業、職人の慣習として「体調不良でも無理して働く」という文化が残りやすいことなどが挙げられる。

2025年6月義務化のポイント:WBGT値28度以上(または気温31度以上)の環境下で、連続1時間以上または1日4時間超の屋外・準屋外作業を行う事業者は、熱中症予防措置を講じることが法的に義務となった。義務化の対象を把握した上で、WBGT計測機器の設置と管理体制の整備が求められる。

WBGTとは何か——暑さ指数の基礎知識

WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)は、熱中症の発生リスクを評価するための総合的な暑熱指標だ。気温だけでなく、湿度・輻射熱・気流の3要素を組み合わせた数値であり、「暑さ指数」とも呼ばれる。

WBGTの計算式

屋外(日射がある場合):WBGT = 0.7 × 湿球温度 + 0.2 × 黒球温度 + 0.1 × 乾球温度
屋内または日射がない場合:WBGT = 0.7 × 湿球温度 + 0.3 × 黒球温度

このうち湿球温度の係数が最も大きい(0.7)ことからわかるように、湿度の影響が最も強く、高温多湿の日本の夏では気温が30度台でも体感的には非常に過酷な環境となる。実際、日射がある屋外では気温28度でもWBGT値が28度を超えることがある。

計測方法:WBGT計測機器(熱中症指数計)を作業場所に設置し、1〜2時間ごとに計測するのが基本だ。環境省の熱中症予防情報サイトでは地点別の予測WBGT値も公開されているが、現場の輻射熱や狭い空間の蒸れ等を加味するためには、実測値の確認が不可欠となる。

WBGT値に基づく作業管理基準表

厚生労働省の「職場における熱中症予防基本対策要綱」では、WBGT値と身体作業強度(代謝率レベル)に応じた作業管理基準を定めている。建設現場の重作業(資材運搬・型枠組立・コンクリート打設など)は「高強度」に分類されることが多い。

WBGT値 リスク区分 作業管理の目安(高強度作業) 追加措置
〜25未満 注意 通常作業可。水分補給を徹底する 作業前の体調確認
25〜28未満 警戒 1時間ごとに10〜15分の休憩を確保する 水分・塩分補給の強化、日陰での休憩
28〜31未満 厳重警戒 激しい作業は中断。45分作業・15分休憩を基本とする クールベスト着用、体温計測、異常者の早期発見
31以上 危険 原則作業停止。作業継続の場合は管理者が常時監視する 冷房設備での休憩、救急体制の確認

なお、暑さに慣れていない「非暑熱順化者」(入社直後・長期休暇明け・体調不良後など)はWBGT基準値から1〜2度低い段階から対策を強化することが推奨されている。梅雨明け直後の急激な気温上昇の時期には特に注意が必要だ。

作業スケジュールの調整

WBGT値が高くなる午前10時〜午後3時台を避けて重作業を組み立てる「クールタイム工法」の導入が有効だ。早朝(6〜8時台)や夕方(16時以降)に重作業を集中させ、気温の高い時間帯は比較的軽い作業に切り替えるスケジュール設計が現場レベルでの実践として広まっている。

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効果的な水分・塩分補給の方法

水分補給は熱中症予防の基本中の基本だが、「水を飲む」だけでは不十分な場合がある。大量発汗時は水と同時に塩分(ナトリウム)も失われるため、水だけを大量に飲むと体内の電解質バランスが崩れ、低ナトリウム血症(水中毒)を引き起こすリスクがある。

補給量の目安

現場での補給体制の整備

個人任せにせず、組織的な補給体制を作ることが重要だ。具体的には次のような取り組みが効果的だ。

  1. 冷水・スポーツドリンクの設置場所を確保する

    作業場所から30秒以内でアクセスできる場所に冷水・スポーツドリンクを置く。保冷クーラーボックスや給水ポット(クーラー付き)を各工区に最低1台設置することが望ましい。

  2. TBM(ツールボックスミーティング)で補給を声かけする

    「今日はWBGT値が27度予報です。1時間ごとに必ず補給してください」と毎朝具体的な数値を示して呼びかける。数値があると作業員の意識が変わりやすい。

  3. 休憩時間を「補給タイム」として制度化する

    「10時・12時・15時の3回は全員が水分補給する」とルールを明文化する。特定の人が补給を忘れてもルーティンがあれば互いにフォローしやすくなる。

  4. 高齢者・新人への個別配慮を行う

    高齢の作業員は暑さに対する感覚が鈍化しやすい。また入場直後で暑熱順化がまだの新規入場者も高リスク。この2グループへの個別声かけと体調確認を職長の日常業務に組み込む。

暑さ対策グッズの選び方と活用法

近年、建設現場向けの暑さ対策グッズは急速に充実している。コストパフォーマンスと実効性のバランスを考慮した主要アイテムを紹介する。

グッズ 効果・特徴 現場での活用ポイント
クールベスト(保冷剤タイプ) 背中・脇の大血管を冷やし深部体温の上昇を抑制する 保冷剤は前夜から冷凍庫へ。交換用を2セット用意すると連続使用できる
空調服(ファン付き作業着) 服内に外気を循環させ汗の気化を促進する。湿度の低い環境でより高い効果 ハーネス着用が必要な作業ではハーネス対応型を選ぶ。バッテリー残量の確認を朝礼時に行う
冷感タオル 水に濡らして振ると気化熱で冷却。首・前腕に当てると効果的 1人1本を支給し、作業中は常時携帯させる。繰り返し使用可能で低コスト
瞬間冷却パック 叩くだけで急冷(使い捨て)。応急処置用として有効 救急キットに5〜10個常備。熱中症疑いの初期対応として頸部・腋下・鼠径部に当てる
塩タブレット・補水塩 手軽に塩分補給できる。水と一緒に摂取することが前提 給水コーナーの隣に設置。「水を飲む時は1粒」のルールで摂取漏れを防ぐ
簡易ミストファン 水の霧と送風で作業休憩エリアを冷却する 仮設詰所や日陰の休憩スペースに設置。電源が取れない現場では電池式タイプを活用
WBGT計(熱中症指数計) 作業環境のWBGT値を定量的に把握できる 作業区域ごとに設置し、1〜2時間ごとに記録。義務化対象現場では必須機器となる
空調服の注意点:空調服は湿度が高い環境(雨天・蒸れた密閉空間)では効果が低下する。また、ファンが回転しているため切断リスクのある回転機械の近傍では着用を制限する必要がある。使用前に危険区域ごとのルールを明確化しておくこと。

熱中症発症時の応急処置手順

どれだけ予防対策を徹底していても、発症ゼロを保証することはできない。発症した場合に迅速かつ適切に対応できるよう、重症度の判断基準と応急処置の手順を現場全員が共有しておく必要がある。

熱中症の重症度分類(2024年ガイドライン準拠)

I度(軽症)
現場対応可
めまい・立ちくらみ・生あくび・大量発汗・筋肉痛・こむら返り。意識は正常。
II度(中等症)
医療機関へ
頭痛・嘔吐・倦怠感・虚脱感・集中力・判断力の低下。自力歩行はできるが注意が必要。
III度(重症)
即救急搬送
意識障害・けいれん・小脳症状・肝・腎機能障害・血液凝固異常のいずれかを含む。
IV度(最重症)
即救急搬送
深部体温40.0℃以上かつ意識障害(GCS≦8)。2024年の新ガイドラインで追加された区分。
判断の基本原則:「意識がおかしい」「呼びかけに反応が鈍い」「自力で水が飲めない」のいずれかに該当する場合は、迷わずII度以上と判断して医療機関への搬送を優先する。現場での経過観察を続けると手遅れになるリスクがある。

発症時の応急処置フロー(I度〜II度の場合)

  1. 涼しい場所に移動させる

    直射日光・輻射熱を避けた日陰、または冷房の効いた車内・仮設詰所へ速やかに移動する。自力歩行が難しい場合は複数人で支える。無理に動かすことで転倒事故が起きないよう注意する。

  2. 衣服を緩め体を冷やす

    ヘルメット・首巻きタオル・安全帯・作業服のファスナーを緩め、体熱の放散を促す。冷水(氷水)でぬらしたタオルを首・両脇の下・鼠径部(大腿内側)に当てる。瞬間冷却パックが手元にあれば活用する。

  3. 経口補水液・スポーツドリンクを与える

    意識がしっかりしており自力で飲めることを確認した上で、経口補水液またはスポーツドリンクを少量ずつ与える。嘔吐・意識障害がある場合は絶対に飲ませない(誤嚥のリスク)。

  4. 仰向けに寝かせて足を高くする

    脳への血流を確保するため、仰向けで下肢を約30cm上げた姿勢が基本。嘔吐している場合は横向き(回復体位)にして気道確保を優先する。

  5. 30分程度で症状が改善しない場合は救急搬送

    I度の対応を行っても30分以内に明確な回復傾向が見られない場合、II度以上に移行している可能性がある。119番通報または最寄りの医療機関への搬送を判断する。元請の安全担当者へ報告も同時に行う。

救急搬送が必要な状態(III度・IV度)の対応

意識障害・けいれんが認められる場合は、まず119番通報を行いながら同時に体の冷却を続ける。救急隊員が到着するまでの間も首・脇・鼠径部の冷却を継続することが推奨されている。AEDが設置されている現場では、意識・呼吸の確認を行い必要に応じてAEDを使用できる体制を整えておく。

事前準備として:最寄りの救急病院の所在地と電話番号、現場の住所(番地・建物名・工区)を作業員全員が確認できる場所に掲示しておくことが重要だ。緊急時は焦りで「現場の住所がわからない」という事態が起きやすい。
ご注意
本記事は一般的な参考情報であり、法的助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、社会保険労務士・弁護士等の専門家、または所轄の労働基準監督署等の行政機関にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づき、最新の法令・通達と異なる場合があります。

まとめ:熱中症対策のチェックリスト

建設現場の熱中症対策は、WBGT値の把握から始まり、作業管理・水分補給・暑さ対策グッズ・応急処置体制の整備まで、複数の層を重ねることで初めて機能する。2025年6月の義務化を受け、形式的な対応ではなく実効性のある体制構築が求められている。

熱中症は、適切な管理と環境整備によって防ぐことができる災害だ。猛暑の常態化が進む中、今後も毎年この課題に向き合い続けるために、現場レベルの対策と管理体制を確実に積み上げていくことが求められる。

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参考資料・出典

厚生労働省「令和6年における職場での熱中症による死傷災害の発生状況」(2025年公表)

厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱」(令和3年4月策定)

日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」(2024年7月公表)

環境省「熱中症予防情報サイト——暑さ指数(WBGT)とは」(wbgt.env.go.jp)

厚生労働省「職場における熱中症予防情報サイト」(neccyusho.mhlw.go.jp)

労働安全衛生法施行令・労働安全衛生規則(2025年6月改正施行分)