資格・法令

高圧室内作業主任者の選任要件と職務
シールド工事・潜函工事の圧気作業を安全に進める

2026年6月30日  |  読了目安 約11分  |  対象:現場監督・安全管理者

地下鉄や下水道のシールド工事、橋脚基礎のニューマチックケーソン工事。建設業の地下空間掘削では、地下水の湧出を抑えるために作業空間に圧縮空気を送り込む「圧気工法」が使われる。大気圧より高い圧力環境で人が作業する以上、減圧症や酸素中毒といった健康障害のリスクが常につきまとう。この危険を専任で管理するために高気圧作業安全衛生規則が選任を義務付けているのが、高圧室内作業主任者である。

高圧室内作業主任者は、ゲージ圧力0.1メガパスカル以上で行われる作業室・シャフト内での作業を直接指揮し、送気量や減圧操作、健康監視を統括する責任者だ。労働安全衛生法第14条の作業主任者制度のうち、唯一「免許」が必要な区分でもあり、技能講習修了では選任できない点が建設業の他の主任者と大きく異なる。

本記事では、高圧室内作業主任者の法的位置づけ、免許試験の概要と対象作業範囲、現場での職務、減圧症(潜函病)の予防と発症時の対応、そして労基立入時に確認されるポイントまでを整理する。シールド工事・潜函工事の発注を受ける建設業の現場監督・安全管理者に向けた実務的なガイドだ。

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目次
  1. 高圧室内作業主任者とは何か
  2. 法的位置づけ:安衛法第14条と高気圧作業安全衛生規則
  3. 選任要件・免許試験と対象作業の範囲
  4. 主任者の職務と現場での運用
  5. 高気圧障害(減圧症)の予防と発症時の対応
  6. 監査・労基立入時のチェックポイント
  7. 記録管理を支援するツール
  8. まとめ

高圧室内作業主任者とは何か

高圧室内作業主任者とは、ゲージ圧力0.1メガパスカル以上の作業室またはシャフト内で行う高圧室内作業について、事業者が選任を義務付けられている作業主任者である。建設業のシールド工事や潜函(ニューマチックケーソン)工事のように、地下水の湧出を圧縮空気で抑える圧気工法の現場で必須となる資格だ。

圧気工法で作業空間に送り込まれる空気の圧力は、深度と地下水位に応じて決まる。地下20メートル程度のシールド工事でも、ゲージ圧力で0.1メガパスカルを超える場合があり、その時点で高圧室内作業主任者の選任義務が発生する。地下40メートル前後の大深度シールド工事では0.3〜0.4メガパスカル前後まで圧力が上がるケースもあり、減圧症リスクが急激に高まる。

0.1MPa以上
主任者選任が必要な圧力
免許
技能講習ではなく国家試験
2年以上
受験要件(実務経験)

労働安全衛生法上の作業主任者の多くは技能講習修了で選任できるが、高圧室内作業主任者は「免許」が必要な数少ない例外である。免許試験は公益財団法人安全衛生技術試験協会が実施する国家試験で、ガス溶接作業主任者・林業架線作業主任者などと並ぶ難易度のグループに位置づけられている。シールド工事や潜函工事を受注する建設業者にとって、有資格者の確保は受注体制の要となる。

高圧室内作業主任者の法的根拠は、労働安全衛生法と高気圧作業安全衛生規則の複数条文にまたがる。建設業の安全管理者は、根拠条文を正しく押さえておくことで監査対応と社内研修の質を上げられる。

労働安全衛生法 第14条(作業主任者)
事業者は、高圧室内作業その他の労働災害を防止するための管理を必要とする作業で、政令で定めるものについては、都道府県労働局長の登録を受けた者が行う技能講習を修了した者又は免許を受けた者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該作業の区分に応じて作業主任者を選任し、その者に当該作業に従事する労働者の指揮その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。
高気圧作業安全衛生規則 第10条(作業主任者の選任)
事業者は、令第6条第1号の作業については、高圧室内作業主任者免許を受けた者のうちから、高圧室内作業ごとに、高圧室内作業主任者を選任しなければならない。
高気圧作業安全衛生規則 第11条(高圧室内作業主任者の職務)
事業者は、高圧室内作業主任者に、作業の方法及び労働者の配置を決定すること、空気の汚れの程度・気温・湿度を点検すること、加圧の速度・減圧の速度・減圧時間を確認すること、空気清浄装置・送気管・通話装置等の機能を点検すること、保護具の機能を点検し不良品を取り除くことなどを行わせなければならない。

労働安全衛生法第14条が作業主任者制度の総則を定めており、対象作業は労働安全衛生法施行令第6条第1号に「高圧室内作業」として列挙されている。具体的な選任基準と職務内容は、高気圧作業安全衛生規則第10条および第11条で詳細に規定されている。建設業の現場で高圧室内作業を伴うのは、シールド工事・潜函工事・トンネル工事の一部などだ。

違反時の罰則は罰金50万円以下
作業主任者の選任義務違反は、労働安全衛生法第119条により50万円以下の罰金に処せられる。事業者だけでなく、安衛法第122条の両罰規定により法人にも罰金が科される。高圧室内作業は他の作業主任者より発症リスクが高いため、選任不備による書類送検事例も建設業で散見される。コンプライアンスと労働者保護の両面から軽視できない。

選任要件・免許試験と対象作業の範囲

選任要件は2つの軸で整理できる。1つ目は「対象作業に該当するか」、2つ目は「選任される者が高圧室内作業主任者免許を有するか」である。建設業の現場では両方の判断が同時に必要となる。

対象作業の範囲

作業の種類 対象となる条件 根拠
シールド工事の圧気作業 作業室・シャフト内の圧力がゲージ圧0.1MPa以上 高気圧則第1条・第10条
潜函(ケーソン)工事 ニューマチックケーソン内の圧気作業 高気圧則第1条・第10条
圧気シールドの修繕・点検 0.1MPa以上の環境で人が入る点検・修繕作業 高気圧則第10条

出典:高気圧作業安全衛生規則 第1条・第10条(最終改正に基づく)

「高圧室内作業」とは、高気圧作業安全衛生規則第1条第2号により「潜函工法その他の圧気工法により、大気圧を超える気圧下の作業室又はシャフトの内部において行う作業」と定義されている。0.1メガパスカル未満の低圧環境で行うトンネル換気作業は対象外であり、潜水士が行う水中作業は別途「潜水作業主任者」の選任対象となる。建設業の中でも対象工事を扱う事業者は限定的だが、該当工事を受注すれば必ず選任が必要だ。

免許試験の概要

高圧室内作業主任者になるには、安全衛生技術試験協会が実施する免許試験に合格した上で、都道府県労働局に免許申請を行う必要がある。受験資格と試験科目は以下のとおりだ。

項目 内容
受験資格 高圧室内業務に2年以上従事した経験を有する者(事業者証明書が必要)
試験形式 筆記試験のみ(学科5科目、5肢択一・選択式中心)
試験科目 ① 圧気工法 ② 送気・排気の方法 ③ 高気圧障害の知識 ④ 関係法令 ⑤ 救急処置の知識
合格基準 各科目40%以上、かつ全体60%以上の得点(一般的な目安)
免許申請 合格後、都道府県労働局に免許申請。免許証交付で初めて主任者として選任可

出典:公益財団法人安全衛生技術試験協会 高圧室内作業主任者免許試験案内

実務経験のカウントと注意点
受験要件の「高圧室内業務2年以上」は、18歳以降の期間が対象となる。シールド工事や潜函工事の経験を有する建設業労働者であれば該当しやすいが、低圧側(0.1MPa未満)の業務だけでは要件を満たさない可能性がある。受験申請前に管轄の労働局・試験協会へ事前確認するのが確実だ。免許試験合格後の免許申請でも、別途事業者証明が必要となる場合がある。

主任者の職務と現場での運用

高気圧作業安全衛生規則第11条は、高圧室内作業主任者の職務として複数の事項を定めている。建設業の現場で求められる実務責任を5つに整理した。

① 作業方法・労働者配置の決定と直接指揮

高圧室内作業主任者は、その日の作業内容・作業時間・人員配置を決定し、作業を直接指揮する。シールド工事では、切羽の安定状態と圧力設定の整合、玉掛け要員と機械操作員の人数配分、減圧時間を考慮した1人あたりの作業時間管理までが対象となる。圧力が高いほど作業時間に対する減圧時間が長くなるため、シフト計画の精度が現場の生産性に直結する。

② 送気量・空気質の管理

作業室内の空気の汚れの程度、気温、湿度を点検する。送気管から送り込まれる空気は十分な清浄度が必要で、二酸化炭素濃度の上昇や有害ガスの混入を防がなければならない。空気清浄装置・送気管・通話装置・避難設備の機能点検も、始業前と作業中に繰り返し行う。シールド工事では切羽からの可燃性ガス・有害ガス侵入リスクも考慮し、ガス検知器の設置と監視体制を組む。

③ 加圧・減圧操作の確認

加圧の速度、減圧の速度、減圧時間を確認することは、高圧室内作業主任者の中核的な職務だ。高気圧作業安全衛生規則は減圧表に基づく減圧操作を義務付けており、規則の別表に従って減圧時間を厳格に管理する必要がある。減圧速度の超過や減圧時間の短縮は減圧症の直接的な発症要因となるため、操作員任せにせず主任者が記録と照合する。

④ 健康監視と保護具の点検

作業者の健康状態を始業時・終業時に確認し、体調不良者を作業から外す判断を行う。前夜の飲酒、睡眠不足、感冒症状などは減圧症や酸素中毒のリスクを高めるため、見逃さない目が必要だ。保護具・防火具・救急用具の機能点検と、不良品の取り除きも主任者の責任である。建設業の他工種では現場代理人が担う健康管理が、高圧室内では主任者の専任業務になる点は特殊性が高い。

⑤ 緊急時の指揮と再圧室の運用

減圧症発症時や火災・停電などの緊急事態が発生した場合、避難・救護・再圧治療の指揮を執る。再圧室(高気圧治療装置)は、減圧症患者を再度高圧環境に戻して窒素気泡を再溶解させる治療装置で、シールド・潜函工事の現場では設置が義務付けられている。再圧室の操作には熟練が必要で、主任者は平時から運用訓練を行う必要がある。

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高気圧障害(減圧症)の予防と発症時の対応

高圧室内作業で最も警戒すべきは、減圧症(潜函病、いわゆる「ベンズ」)である。圧力環境下で体内に溶け込んだ窒素が、急激な減圧によって気泡化し、関節痛・神経障害・循環器障害などを引き起こす。建設業のシールド工事・潜函工事では、過去に重大な健康障害事例が複数報告されている。

減圧症の主な症状と発症メカニズム

分類 主な症状 発症のメカニズム
Ⅰ型減圧症 関節痛(特に肩・肘・膝)、皮膚のかゆみ・斑紋 窒素気泡が関節周辺や皮下に形成される
Ⅱ型減圧症 めまい、頭痛、視覚障害、麻痺、意識障害 中枢神経系(脳・脊髄)への窒素気泡侵入
空気塞栓症 胸痛、呼吸困難、循環不全 急激な減圧で肺胞が破れ気泡が動脈に侵入
骨壊死 慢性的な関節痛、変形(晩発性) 長期間の高圧曝露で骨血流が阻害される

出典:厚生労働省「高気圧作業安全衛生規則の解説」

予防のための基本対策

減圧症は「減圧表に従った減圧操作」と「健康管理」を徹底することで多くを予防できる。建設業の高圧室内作業現場で実施すべき基本対策をまとめる。

発症時の対応フロー

減圧症の発症が疑われた場合、初動の遅れが症状の悪化と後遺症リスクに直結する。主任者は以下のフローを現場で即座に判断・指示できる必要がある。

減圧症は晩発性発症もある
減圧症は作業終了直後だけでなく、数時間後〜24時間後に発症するケースもある。シールド工事の作業者には、退勤後も体調変化があれば必ず申告するよう周知徹底することが、建設業の安全管理者に求められる。終業後のフォローアップ体制が減圧症の重症化を防ぐ最後の砦となる。

監査・労基立入時のチェックポイント

労働基準監督署の立入調査では、高圧室内作業主任者の選任と職務遂行状況、そして高気圧作業安全衛生規則の運用記録が確認される。建設業の特定元方事業者は、下請も含めた選任体制と記録の保管責任を負う。

労基署が確認する典型的な書類

確認書類 確認ポイント
作業主任者選任記録 0.1MPa以上の高圧室内作業がある日に選任記録が存在するか
高圧室内作業主任者免許証 選任された者の免許証コピーが現場で確認可能か
加減圧操作記録 減圧表に基づく速度・時間で操作が行われた記録があるか
送気量・空気質の点検記録 始業前と作業中の空気清浄装置点検が記録されているか
特殊健康診断結果 6か月以内ごとの健康診断が労働者全員に実施されているか
再圧室点検記録・運用訓練記録 再圧室の機能点検と主任者を含む運用訓練の実施記録
「免許者不在で技能講習修了者を選任」は重大な指摘事項
高圧室内作業主任者は「免許」が必須であり、技能講習修了証では選任できない。シールド工事の現場で、他の作業主任者と混同して技能講習修了者を選任した場合、即座に選任義務違反として指摘される。免許者の確保が間に合わない場合は工事の一時中断も含めて判断する社内ルールが必要だ。建設業の他工種とは選任条件が根本的に異なる点を、安全衛生協議会で繰り返し周知することが重要となる。

AnzenAIでの記録活用

労基署対応で実際に問われるのは「記録の質」と「記録の即時性」だ。手書きの選任記録や紙の加減圧操作簿は、シールド工事や潜函工事の特殊な作業環境では記入漏れ・記載ミスが発生しやすく、立入調査時に指摘の原因となる。AnzenAIでは、作業手順書・KY表・始業前点検記録のひな型をAIが自動生成し、現場での記録入力をスマートフォンで完結できる仕組みを開発予定で進めている。減圧症対策の記録漏れを減らし、労基立入時に提示できる証跡を残す運用が、建設業の安全管理者に求められている。

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高圧室内作業主任者として選任された後、シールド工事・潜函工事の現場では作業手順書・リスクアセスメント・KY記録・加減圧操作記録・健康診断記録の作成と保管が日々求められる。これらの書類業務を効率化するツールを紹介する。

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ご注意
本記事は一般的な参考情報であり、法的助言を提供するものではありません。資格・講習の受講要件や作業主任者の選任の適用は、実施機関または所轄の労働基準監督署等の最新情報をご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づき、最新の法令・通達と異なる場合があります。

まとめ

高圧室内作業主任者について、本記事の要点を整理する。

高圧室内作業は、建設業の中でも特殊性が高く、減圧症という労働者の生命と健康に直結するリスクを常に内包する工種である。高圧室内作業主任者の選任は最低限の法的要件にすぎず、選任された主任者が5つの職務を実際に果たし、記録に残す運用体制を作ることが、シールド工事・潜函工事を受注する建設業の現場監督・安全管理者に求められる本質的な責任だ。労災ゼロ・不適合ゼロを目指す現場では、主任者を中心とした安全管理の仕組みを継続的に磨いていく必要がある。

参考法令・資料

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