安全管理

建設現場の高齢作業員安全管理
エイジフレンドリーガイドライン活用

2026年3月8日  |  読了目安 約9分  |  対象:安全管理者・経営者

建設業就業者の約37%が55歳以上を占める。高齢化はもはや将来の課題ではなく、今日の現場が直面する現実である。60歳以上の労働者は30代と比較して、労働災害の発生率が男性で約2倍、女性で約4倍に達する。転倒・墜落・腰痛といったリスクは、加齢に伴う身体機能の変化と直結している。

厚生労働省は2020年3月、「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」を公表した。建設業を含む危険有害業務を伴う業種において、高齢作業員の特性に応じた安全対策を講じることを事業者に求めている。

本記事では、エイジフレンドリーガイドラインの要点を整理し、建設現場の安全管理者・経営者が実践すべき具体的な取組を解説する。補助金の活用方法も併せて紹介する。

目次
  1. 建設業における高齢作業員の災害リスク
  2. エイジフレンドリーガイドラインの概要
  3. 体力測定の実施方法と評価基準の設定
  4. 作業負荷の調整:現場で実践できる対策
  5. 健康管理の強化:ガイドラインが求めること
  6. エイジフレンドリー補助金の活用方法
  7. 安全管理体制の整備:5つの実践ステップ
  8. 安全管理を支援するツール

建設業における高齢作業員の災害リスク

厚生労働省の統計によれば、休業4日以上の死傷者に占める60歳以上の割合は全産業で30%に上る。建設業では墜落・転落による死亡リスクが特に高く、加齢による身体機能の低下がその背景にある。

37%
建設業における55歳以上の就業者比率(2024年)
30%
休業4日以上の死傷者に占める60歳以上の割合
3.6
墜落・転落災害の60歳以上 vs 20代(男性)の発生率比較

出典:厚生労働省「令和6年労働災害発生状況」、国土交通省「建設業の現状と課題」

高齢作業員が抱える身体的な変化は多岐にわたる。筋力・敏捷性・バランス感覚の低下に加え、視力・聴力の衰えも災害リスクを高める要因となる。これらの変化は個人差が大きく、年齢だけで一律に判断することは適切ではない。

「経験があるから大丈夫」という思い込みが危険
ベテラン作業員は経験値が高い一方、身体機能の変化を自覚しにくい傾向がある。過去と同じ作業でも、体力の低下により今日は危険な作業になっている場合がある。管理者は客観的なデータに基づいて作業適性を判断する必要がある。

2024年の建設業死亡者数は218人で前年比増となった。業界全体の高齢化が進む中、高齢作業員への安全対策は喫緊の経営課題である。

エイジフレンドリーガイドラインの概要

エイジフレンドリーガイドラインは、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」の通称である。2020年3月に厚生労働省が公表した。高齢労働者を雇用する事業者と労働者双方に求められる取組を具体的に示している。

エイジフレンドリーガイドラインの対象
60歳以上の高齢労働者を現に使用している事業場、またはこれから使用する予定の事業場が対象。建設業・製造業・運輸業など、危険有害業務を伴う労働災害リスクの高い業種では、特に必要とされる身体機能等を考慮した対策が求められる。

ガイドラインが求める事業者の取組は、大きく5つの領域に整理される。

領域 主な取組内容
経営トップのコミットメント 経営者が高齢労働者の安全衛生確保を経営方針に位置づける
職場環境の改善 転倒・墜落防止設備の整備、照明・段差・床面の改善
高齢労働者の特性に配慮した作業管理 体力測定の実施、作業内容・負荷・時間の見直し
健康や体力の状況の把握 健康診断の実施・活用、体力チェックの定期実施
柔軟な働き方の実現 短時間勤務・隔日勤務・軽作業への転換など

出典:厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」(2020年3月16日公表)

ガイドラインへの対応は法的義務ではなく努力義務の位置づけである。ただし、労働安全衛生法上の安全配慮義務は事業者に課せられており、高齢作業員の特性を無視した作業管理は労災発生時に重大な責任を問われる。

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体力測定の実施方法と評価基準の設定

エイジフレンドリーガイドラインが特に重視する取組の一つが、体力チェックの定期実施である。高齢作業員の体力状況を客観的に把握し、作業内容を適切にマッチングさせることが目的である。

体力チェックで測定すべき項目

ガイドラインでは「安全作業に必要な体力を定量的に測定する手法と評価基準を、安全衛生委員会等の審議を踏まえてルール化する」よう求めている。建設現場の作業特性に応じて、以下の項目を参考にして測定内容を設定する。

測定項目 測定方法(例) 関連する建設作業
筋力 握力測定(握力計使用) 資材運搬、工具操作
バランス能力 開眼片足立ち(秒数計測) 足場・はしご作業、高所作業
俊敏性 5回椅子立ち上がりテスト 急な移動・回避動作が必要な作業
柔軟性 長座体前屈 低姿勢・屈曲作業
持久力 3分間歩行テスト(心拍数の回復速度) 長時間の屋外作業、重作業

評価基準の設定と活用

測定結果の評価基準は、一律の数値基準を機械的に適用するものではない。自社の作業内容・環境・工種に応じて安全衛生委員会が設定する。年に1〜2回の定期測定を継続することで、個人の経年変化を追跡できる。

体力チェックを「査定」として使わない
体力測定の目的は、適切な作業配置を行うためのデータ収集である。結果が悪ければ即解雇・降格となるような運用は、高齢労働者のモチベーション低下と人材流出を招く。測定結果は作業内容の最適化に活用するという趣旨を、対象作業員に丁寧に説明することが重要である。

作業負荷の調整:現場で実践できる対策

体力測定の結果を踏まえ、作業内容・環境・時間を適切に調整する。これがエイジフレンドリーガイドラインの中核をなす取組である。

作業内容・配置の見直し

高齢作業員の体力特性に合わせた作業配置の見直しが基本となる。重量物の取り扱い頻度を減らし、補助機器の導入を検討する。梯子・足場での高所作業は、バランス能力の低下した作業員への配置を避ける。

作業負荷の種類 高齢作業員への配慮事項 具体的な対策例
重量物取り扱い 腰部への過剰な負担を避ける 台車・リフト・補助具の導入、最大取扱重量の設定
高所作業 墜落リスクを高める要因の除去 バランス測定後の配置判断、安全帯の常時着用徹底
炎天下の屋外作業 熱中症リスクの増大への対応 作業時間の短縮、休憩頻度の増加、冷却ベスト導入
夜間・薄暮作業 視力低下による事故リスクへの対応 照明の増強、高視認性反射ベストの着用
連続作業時間 疲労の蓄積を防ぐ 定期的な休憩の義務化(1時間に1回程度)

休憩・勤務形態の工夫

身体的な負担の大きな作業では、定期的な休憩の導入が不可欠である。ガイドラインでは、短時間勤務・隔日勤務・交替制勤務などの柔軟な勤務形態の採用も推奨している。体力の落ちた作業員に通常と同じシフトを課し続けることは、災害発生リスクを高める。

休憩室の環境整備も重要
仮設トイレの段差解消、休憩所への冷暖房設備の設置、椅子・ベンチの確保など、休憩環境の整備も高齢作業員への配慮として有効である。令和7年度エイジフレンドリー補助金では、休憩場所への空調機器設置費用も補助対象に含まれている。

健康管理の強化:ガイドラインが求めること

エイジフレンドリーガイドラインは、健康管理の強化についても事業者に具体的な取組を求めている。建設業では屋外での重労働が多く、循環器系疾患・熱中症・筋骨格系疾患のリスクが高い。

健康診断の実施と結果の活用

労働安全衛生法に基づく定期健康診断の確実な実施は前提条件である。エイジフレンドリーガイドラインではさらに踏み込み、健診結果を作業配置に活用するよう求めている。産業医・保健師と連携し、高血圧・糖尿病・心疾患などの所見がある作業員に対して作業制限・配慮を行う。

こころの健康管理

高齢労働者は定年後の再雇用や技能の承継など、精神的な課題を抱えやすい。仕事の意義・役割が見えにくくなることによるメンタル不調は、集中力低下を通じて災害リスクに直結する。管理者は高齢作業員との定期的なコミュニケーションを確保する。

作業前の体調確認の徹底

毎朝のKY活動(危険予知活動)において、体調確認を組み込む。高齢作業員が「体がつらい」と申告しやすい職場風土を整えることが重要である。「言いにくい空気」の中で無理をして作業に就くことが、重大災害につながるケースは少なくない。

KY活動に「高齢者配慮」の視点を追加する
従来の危険予知活動に加え、高齢作業員が参加する作業では「加齢による体力・感覚の変化を踏まえたリスク」を明示的に検討する項目を設ける。「昨日と同じ作業だから大丈夫」という慣れによる油断を防ぐ効果がある。

エイジフレンドリー補助金の活用方法

厚生労働省は中小企業を対象に「エイジフレンドリー補助金」を設けている。高齢作業員の安全対策に要する費用の一部を補助する制度である。令和7年度(2025年度)の内容を紹介する。

令和7年度の補助コース

コース名 主な補助対象 補助率・上限額
総合対策コース エイジフレンドリーガイドラインに基づく総合的な安全衛生管理体制の整備 補助率3/4、上限100万円
職場環境改善コース 転倒防止設備、高所作業の安全設備、熱中症対策(スポットクーラー・冷却ベスト等) 補助率4/5、上限100万円
転倒防止・腰痛予防のための運動指導コース 健康運動指導士等の専門家による体操・運動指導の実施費用 補助率3/4、上限30万円
コラボヘルスコース 健康保険組合と連携した健康増進取組の実施費用 補助率3/4、上限30万円

出典:厚生労働省「令和7年度エイジフレンドリー補助金」(申請期間:2025年5月15日〜10月31日)

交付決定前の取組は補助対象外
補助金の交付決定を受ける前に実施・購入した取組・設備は補助対象にならない。申請・採択の手順を踏んでから対策を実施する必要がある。補助金事務センター(日本労働安全衛生コンサルタント会)に事前に確認することを推奨する。

建設業で活用しやすい補助対象の例

令和7年度から職場環境改善コースの名称変更に伴い、熱中症対策費用が新たに補助対象となった。炎天下での屋外作業が多い建設業では積極的な活用が望まれる。

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安全管理体制の整備:5つの実践ステップ

エイジフレンドリーガイドラインに基づく安全管理体制の整備を、5つのステップで整理する。順番に取り組むことで、体系的な高齢作業員対策を構築できる。

ヒヤリハット報告の活性化が予防の鍵
高齢作業員が関わるヒヤリハットは、報告されないまま埋もれるケースが多い。「報告すると配置転換される」という不安が報告をためらわせる。ヒヤリハット報告を評価する文化を醸成し、未然防止のデータとして活用することが重大災害の発生抑止につながる。

安全管理を支援するツール

高齢作業員への対応を含む安全管理体制の整備には、書類作成・分析のデジタル化が効果的である。現場の負担を軽減しながら安全管理のレベルを高めるツールを紹介する。

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高齢作業員が関わる労働災害・ヒヤリハットの真因を「なぜなぜ分析」で体系的に掘り下げるツール。再発防止策の策定を支援し、エイジフレンドリー対策の効果検証にも活用できる。

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ご注意
本記事は一般的な参考情報であり、法的助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、社会保険労務士・弁護士等の専門家、または所轄の労働基準監督署等の行政機関にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づき、最新の法令・通達と異なる場合があります。

まとめ:高齢作業員対策は現場の競争力に直結する

本記事の要点を整理する。

高齢作業員が安心して働ける現場づくりは、ベテラン人材の定着に直結する。建設業の深刻な人手不足の中で、60歳以上の経験豊富な作業員の就労継続は即戦力の確保そのものである。エイジフレンドリーガイドラインへの対応を、コスト負担ではなく人材戦略として位置づける視点が求められる。

参考法令・資料
國分 良太

著者

國分 良太

制御設計エンジニア → AI・IoT・DX推進|AIコンサルタント|東京の製造業メーカー開発部門

製造業の現場で設備設計・改善プロジェクト・品質向上施策に従事。なぜなぜ分析(RCA)やリスクアセスメントの実務経験をもとに、現場DXを支援するアプリケーションの開発と情報発信に取り組んでいます。AIコンサルタントとして、企業のAI・生成AI活用や現場DX導入の支援も行っています。

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