第14次労働災害防止計画(以下、第14次防止計画)は、2023年4月から2028年3月までの5年間を計画期間とする国の中期計画である。厚生労働省が2023年3月に策定し、全業種を横断する重点対策と業種別施策が定められた。
建設業は依然として死亡災害が最も多い業種の一つである。2024年の建設業死亡者数は232人に上り、前年比で増加した。死亡災害の約4割が墜落・転落によるものであり、計画が掲げる2027年までの15%減少目標の達成には程遠い状況が続く。
本記事では、第14次防止計画の全体像と建設業に関わる重点施策を整理し、安全管理者・経営者が今取るべき対応を具体的に解説する。
第14次防止計画は、全国の労働者の安全と健康を守るための国家戦略である。計画が掲げる最重要指標は2つある。第1は死亡災害の5%以上削減、第2は死傷災害(休業4日以上)の増加傾向に歯止めをかけ2027年までに減少に転じさせることである。
出典:厚生労働省「第14次労働災害防止計画」(2023年3月策定)
計画の背景には、建設業・製造業・陸上貨物運送の3業種が全死亡者数の6割超を占めるという偏在がある。なかでも建設業は毎年200人超の死亡者を出しており、重点的な対策が不可欠な業種と位置づけられている。
計画は全業種に共通する8つの重点対策を定めている。
| 重点対策 | 主な内容 |
|---|---|
| ①自発的な安全衛生活動の促進 | リスクアセスメント・安全衛生マネジメントシステムの導入 |
| ②作業行動起因の災害防止 | 転倒・腰痛・墜落転落の防止(中高年女性を中心に) |
| ③高年齢労働者対策 | 加齢による体力・認知機能低下を踏まえた職場環境整備 |
| ④多様な働き方・外国人対策 | 非正規・外国人労働者への安全衛生教育の徹底 |
| ⑤個人事業者等への対策 | 一人親方など雇用によらない就業者への安全確保 |
| ⑥化学物質の自律的管理 | GHS対応・化学物質管理者の選任・ばく露防止 |
| ⑦業種別対策の推進 | 建設・製造・林業・陸上貨物運送の業種特有リスクへの対応 |
| ⑧メンタルヘルス・過重労働対策 | 精神障害による労災の増加傾向への歯止め |
出典:厚生労働省「第14次労働災害防止計画」を基に作成
建設業に特化した数値目標は2つ設定されている。一つは死亡者数を2022年比で2027年までに15%以上削減すること、もう一つは墜落・転落リスクアセスメントを実施する建設業事業場の割合を85%以上とすることである。
2022年の建設業死亡者数は281人だった。15%削減目標を達成するには239人以下に抑える必要がある。しかし2024年の確定値は232人となり、死亡者数は前年比で増加に転じた。計画期間の折り返し地点を過ぎた現在、目標達成に向けた取り組み強化が急務である。
建設業における死亡災害は、その原因が偏在している。毎年の統計を見ると、墜落・転落が約4割を占め、他の原因を大きく引き離している。
| 死亡災害の種類 | おおよその割合 | 主な発生場所・状況 |
|---|---|---|
| 墜落・転落 | 約40% | 足場、屋根、開口部、はしご・脚立 |
| 建設機械・車両等 | 約15% | 重機の接触・はさまれ、クレーン作業 |
| 倒壊・崩壊 | 約10% | 土砂崩壊、型枠崩壊、構造物倒壊 |
| 飛来・落下 | 約8% | 工具・資材の落下、はつり作業 |
| その他 | 約27% | 感電、熱中症、交通事故など |
出典:建設業労働災害防止協会「建設業における労働災害発生状況」を基に作成
死亡災害の4割を占める墜落・転落は、第14次計画で最も重点的に取り扱われる建設業固有のリスクである。計画はリスクアセスメントの実施と設備的対策の組み合わせを求めている。
計画が事業者に求める墜落・転落対策の骨子は3点ある。
転倒災害は第14次計画で新たに業種横断的な重点対策として加わった。建設業でも休業4日以上の死傷災害のうち、転倒が一定の割合を占めており、無視できないリスクである。
建設現場での転倒は、段差・仮設通路・養生シートの上での滑り・資材の置き方による通路閉塞などで発生する。高年齢労働者の増加に伴い、バランス能力・反応速度の低下が転倒につながりやすい環境が生まれている。
| 転倒発生要因 | 建設現場での具体例 | 対策の方向性 |
|---|---|---|
| 環境要因 | 段差・スロープ・雨天時の濡れた通路 | 整理整頓・滑り止め・照明確保 |
| 作業要因 | 重量物を持った状態での移動 | 運搬補助具の活用・適切な積載量の設定 |
| 人的要因 | 高年齢・疲労・急ぎ作業 | 体力維持プログラム・余裕のある工程管理 |
計画は、転倒リスクへの対応として職場環境の整備と合わせ、労働者の体力維持・運動習慣の促進を推奨している。中高年の就業者が多い建設業では、朝礼時のストレッチや体力チェックシートの導入が実務的な対応となる。
2023年4月以降、労働安全衛生法の化学物質規制が大きく変わった。従来の「個別物質を指定して禁止・規制する」モデルから、「事業者が自らリスクを評価して管理する」自律管理モデルへの転換である。第14次計画はこの新体系の定着を重点課題として掲げている。
建設現場では、塗料・接着剤・防水材・溶接ヒュームなど多様な化学物質を日常的に使用する。加えて、既存建物の解体・改修で石綿(アスベスト)にさらされるリスクも残存する。
2024年4月から、化学物質を取り扱うすべての事業場に「化学物質管理者」の選任が義務付けられた。建設業も対象であり、管理者はリスクアセスメントの実施と労働者教育を担う。第14次計画は管理者の能力向上と管理体制の実効性確保を求めている。
建設業では55歳以上の就業者が全体の約37%を占める。第14次計画は高年齢労働者対策を業種横断的重点事項として位置づけ、特に建設業での対応強化を求めている。
60代・70代の建設技能者が現場に増える中、加齢による変化を踏まえた安全管理が必要である。視力・聴力の低下、筋力・バランス機能の低下、暑熱への対応力低下がリスクを高める。
| 加齢による変化 | 建設現場での具体的リスク | 対応策の例 |
|---|---|---|
| 筋力・バランス低下 | 転倒・転落リスクの増大 | 手すり設置・ステップの高さ統一・体操プログラム |
| 視力・聴力低下 | 警報・指示の聞き逃し、段差の見落とし | 視覚的な危険表示・大きな文字の標識・警報の多重化 |
| 体温調節機能低下 | 熱中症・低体温症のリスク増大 | こまめな休憩・WBGT管理・個別の体調確認 |
| 反応速度低下 | 危険回避の遅れ、操作ミス | 余裕ある作業計画・機械操作時の補助者配置 |
エイジフレンドリーガイドラインに基づく職場環境の見直しが求められている。安全帯のフックかけ作業が一人でできるか、重量物の持ち運びに負担が大きすぎないか、といった具体的な確認事項を定期的に点検する仕組みが有効である。
建設業は屋外作業が基本であり、熱中症リスクが高い業種の一つである。第14次計画は熱中症による死亡者ゼロを目指す方針を明示しており、WBGT(湿球黒球温度)管理と作業中断基準の明確化を求めている。
熱中症対策に関しては、2021年の労働安全衛生規則の改正でWBGT値の管理が実質的に標準化された。建設現場では下記の対応が実務の核となる。
重量物の取り扱いが多い建設業では、腰痛は慢性的な労働衛生課題である。第14次計画は腰痛予防対策指針の活用と補助機器の導入を推奨している。パワーアシストスーツなどの技術的対策への補助制度も整備されつつある。
第14次計画は2023年4月にスタートし、2027年度末が計画期間の終点である。残り2年を切った今、現場の安全管理者・経営者が優先すべき対応を整理する。
第14次防止計画への対応では、安全書類の品質向上と災害原因の体系的な分析が現場の実務課題となる。以下に活用できるツールを紹介する。
建設現場の安全書類(KY表、作業手順書、安全計画書、新規入場者台帳など)をAIが自動生成するツール。第14次計画の重点施策に対応した書類を効率的に整備できる。書類作成時間の削減により、実質的な安全活動に充てる時間を確保できる。
AI安全書類自動生成ツールを見る労働災害・ヒヤリハットの原因を「なぜなぜ分析」で体系的に掘り下げるツール。原因を「不注意」で終わらせず、設備・管理・教育の観点から真因を特定する。第14次計画が求める再発防止計画の作成を直接支援する。
なぜなぜ分析ツールを見る本記事の要点を整理する。
第14次防止計画の目標年度である2027年度まで残り約1年半となった。数値目標の達成が現実的かどうかは、個々の事業者の取り組みにかかっている。計画を「国の目標」として他人事にするのではなく、自社の安全管理水準を引き上げる契機として活用することが、経営者・安全管理者に求められる姿勢である。