安全管理

トンネル工事の安全管理
粉じん・換気・避難・救護の総合対策

2026年3月8日  |  読了目安 約9分  |  対象:安全管理者

トンネル(ずい道)工事は、建設工事のなかでも特に危険度の高い作業に分類される。閉鎖空間での掘削作業は、落盤・肌落ち・粉じん・ガス爆発・出水など複合的なリスクを常に抱えている。

厚生労働省は、令和6年3月に「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」を改正した。また、令和3年4月施行の粉じん障害防止規則改正により、ずい道工事における粉じん濃度の目標レベルも従来の3mg/m³から2mg/m³へ引き下げられている。

本記事では、安全管理者が把握すべきトンネル工事の安全管理を、切羽付近の措置・粉じん対策・換気設備・避難体制・救護体制・落盤防止の6つの観点から体系的に整理する。

目次
  1. トンネル工事特有のリスクと法令の位置づけ
  2. 切羽付近の安全措置:肌落ち・落盤防止
  3. 粉じん対策:目標濃度と測定義務
  4. 換気設備:必要換気量と管理方法
  5. 避難設備・連絡体制:距離別の設置基準
  6. 救護体制:法定義務と実務ポイント
  7. 安全管理者が確認すべき総合チェックポイント
  8. 現場業務を支援するツール

トンネル工事特有のリスクと法令の位置づけ

トンネル工事では、地上の土木工事では生じない固有のリスクが集積する。主要なリスクを整理すると、落盤・肌落ち・出水・粉じん障害・酸素欠乏・ガス爆発・火災の7つに大別できる。

6%
切羽肌落ち災害の死亡率
42%
休業1ヶ月以上となる割合
2mg/m³
粉じん濃度目標レベル(令和3年改正)

出典:労働安全衛生総合研究所「山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に関する検討会報告書」(令和5年3月)、厚生労働省

法令上の根拠は、労働安全衛生規則第2編第6章「ずい道等の建設の作業等」(第382条〜第389条の11)に集中している。この章は、切羽付近の措置・換気・粉じん・避難・救護に関する事業者義務を包括的に規定する。

関連法令の体系

安全管理者は、これらの法令・ガイドラインを横断的に把握した上で、個別工事の条件に応じた管理計画を策定しなければならない。

切羽付近の安全措置:肌落ち・落盤防止

切羽とは、トンネル掘削の最先端で地山が露出している面のことである。地山の状態が直接作業者に影響する場所であり、肌落ち災害のリスクが最も高い。

肌落ち災害の実態と令和6年改正の要点

肌落ち災害は死亡率6%、休業1ヶ月以上が42%と重篤度が高い。令和6年3月の改正ガイドラインでは、以下の対策が追加・強調された。

落盤・肌落ち防止のための法定措置

労働安全衛生規則第384条は、事業者に対して明確な義務を課している。落盤または肌落ちにより労働者に危険を及ぼすおそれがある場合は、次の措置を講じなければならない。

措置の種類 具体的内容 根拠条文
ずい道支保工の設置 鋼製支保工・吹付けコンクリートを切羽進行に合わせて施工 安衛則第384条
ロックボルトの施工 地山を固定するボルトを適切な間隔・角度で打設 安衛則第384条
浮石の除去 切羽および坑内天端・側壁の浮石を作業前に落とす 安衛則第384条
鏡吹付け 切羽面への吹付けコンクリートによる地山安定化(改正ガイドライン) 令和6年改正ガイドライン
作業主任者の配置が必須
ずい道等の掘削等の作業は、「ずい道等の掘削等作業主任者技能講習」を修了した者のうちから作業主任者を選任しなければならない。作業主任者は換気方法の決定・呼吸用保護具の選択・使用状況の監視も職務に含まれる(令和3年改正追加)。
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粉じん対策:目標濃度と測定義務

トンネル掘削作業では、削岩・ずり積み・吹付け作業等で大量の粉じんが発生する。粉じんを長期間吸入すると、じん肺(珪肺)を発症する危険がある。じん肺は不可逆的な疾患であり、予防こそが唯一の対策である。

粉じん濃度の目標レベルと測定頻度

令和3年4月施行の改正粉じん障害防止規則・改正ガイドラインで、管理基準が大幅に強化された。

項目 改正前 改正後(令和3年4月〜)
粉じん濃度目標レベル 3 mg/m³ 2 mg/m³(引き下げ)
測定頻度 坑内作業場:月2回以上 切羽に近接する場所でも月2回以上(新設)
測定結果の周知 記録・保存のみ 労働者への周知義務が追加
作業主任者の職務 換気方法の決定 呼吸用保護具の選択・点検・使用監視を追加

出典:厚生労働省「ずい道等建設工事における粉じん対策に関するガイドライン」(令和2年改正)、粉じん障害防止規則(令和3年4月施行)

粉じん発生源への措置

粉じん濃度を2mg/m³以下に維持するには、発生源対策と換気の組み合わせが基本となる。発生源対策として実施すべき措置は次のとおりである。

測定記録は3年間保存が必要
粉じん濃度の測定結果は記録し、3年間保存しなければならない。測定結果が目標レベルを超えた場合は、原因を調査し改善措置を講じた上で再測定を行う。改善措置の内容も記録に残すことが求められる。

換気設備:必要換気量と管理方法

坑内作業環境の維持において換気は最重要の管理項目である。換気が不十分だと、粉じん濃度の上昇だけでなく、酸素欠乏・炭酸ガス濃度上昇・ガス爆発リスクが一気に高まる。

換気装置の設置義務と換気量

事業者は、ずい道等の建設作業を行う場合、坑内作業場の気温・湿度・空気の流通状態を適正に保つため、換気装置を設けなければならない(労働安全衛生規則第382条)。

管理項目 基準値・要求事項
酸素濃度 18%以上を維持(酸欠則第3条)
炭酸ガス(CO₂)濃度 1.5%以下(安衛則第582条)
一酸化炭素(CO)濃度 50ppm以下を目安(作業環境管理)
換気量の測定頻度 2週間以内ごとに1回以上(安衛則第603条準用)
発破後の換気 発破後は煙・ガスを排出してから作業再開

換気方式の選定

トンネル工事の換気方式は、坑の長さ・断面・掘削方式によって選択する。主な方式は次の3つである。

可燃性ガス発生の懸念がある場合
地質調査等でメタンガス等の可燃性ガスの発生が予想される場合は、専用のガス検知器による常時監視体制を構築する。換気設備・電気設備・機械は防爆構造とする義務がある(安衛則第386条)。

避難設備・連絡体制:距離別の設置基準

トンネル工事では、出入口から切羽までの距離が延伸するにつれて、緊急時の避難・連絡手段を段階的に整備する義務がある。この「距離別の設置基準」は安全管理者が必ず把握しておかなければならない。

労働安全衛生規則が定める距離別基準

切羽までの距離 必要な設備・措置 根拠条文
100m到達時 サイレン・非常ベル等の警報設備の設置 安衛則第389条の3
500m到達時 警報設備に加え、電話機等の通話装置を設置 安衛則第389条の3
全工期を通じて 作業者への警報設備・通話装置の場所の周知 安衛則第389条の3

出典:労働安全衛生規則 第389条の3

避難訓練・避難ルートの整備

設備を設置するだけでは不十分である。緊急時に実際に機能させるには、以下の措置が必要となる。

新規入場時の確実な周知が重要
新規入場者が警報設備・通話装置・避難経路を把握しないまま作業に就くケースが事故につながる。新規入場者教育の中で、避難設備の場所と使用方法を必ず実地で確認させることが現場管理者の責任である。

救護体制:法定義務と実務ポイント

トンネル工事では、火災・爆発・出水・酸素欠乏が同時多発的に発生する可能性がある。いかに予防対策を講じても、万一の事態に備えた救護体制の整備は事業者の法的義務である。

救護に関する法定義務の概要

労働安全衛生規則第389条の7以下では、一定規模以上のずい道工事について救護組織の整備・救護訓練の実施を義務づけている。

義務の内容 具体的要求事項
救護組織の設置 事業者は救護に関する組織を設けなければならない
救護訓練の実施 救護組織の構成員に対し、救護に必要な訓練を実施する
救護用具等の備置き 空気呼吸器等の救護用具・救急薬品を坑口付近に備える
避難用具の備置き 自己救命器・懐中電灯等を適切な場所に配置する

自己救命器(自給式呼吸具)の管理

坑内での火災・ガス事故では、瞬時に有毒ガスが充満する。作業者が自ら装着して脱出できる自己救命器(SCSR)の整備と使用訓練は特に重要である。以下の点を定期的に確認する。

酸素欠乏特別教育の実施義務
酸素欠乏危険作業(空気中の酸素濃度が18%未満の場所等)に労働者を就かせる場合は、酸素欠乏危険作業特別教育の実施が必要である(安衛則第36条第26号)。トンネル工事では、地層由来のガスにより酸欠が発生するケースがある。

安全管理者が確認すべき総合チェックポイント

トンネル工事の安全管理において、安全管理者が日常的に確認すべき事項を分野別に整理する。

切羽・地山管理

粉じん・換気管理

避難・救護体制

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まとめ:総合的な安全管理体制の構築が不可欠

本記事の要点を整理する。

トンネル工事の安全管理は、単一の対策で完結しない。切羽管理・粉じん・換気・避難・救護が相互に関連する総合体制として機能して初めて、作業者の安全が保たれる。安全管理者は最新の法令・ガイドライン改正を定期的に確認し、管理計画に反映させ続けることが求められる。

参考法令・資料