解説

建設業許可と安全管理の関係
経審の安全評価ポイント

2026年3月7日  |  読了目安 約9分  |  対象:経営者

公共工事の受注を目指す建設会社にとって、経営事項審査(経審)の総合評定値は受注機会を左右する重要な指標です。中でも「その他の審査項目(W点)」は、安全管理体制や労働福祉の状況が直接的に点数に反映される項目であり、経営判断と現場管理の両面から対策が求められます。

W点は総合評定値P点の15%を占めます。配点レンジは-1,995点から2,061点と幅が広く、対策の有無で大きな差が開きます。安全管理に関連する加点項目を確実に押さえ、減点要因を排除することが、公共工事の入札参加資格取得に直結します。

本記事では、W点の構成と安全管理に関わる評価項目を網羅的に整理し、加点を獲得するための具体的な施策減点を回避するための注意点を解説します。

目次
  1. 経審の仕組みとW点の位置づけ
  2. W点の構成項目(W1〜W10)一覧
  3. W1:労働福祉の状況と安全管理の加点
  4. W8:ISO登録と安全マネジメントの評価
  5. W4:法令違反による減点と労災隠しのリスク
  6. 安全管理でW点を上げる実務ステップ
  7. 安全管理業務を効率化するツール
  8. まとめ

経審の仕組みとW点の位置づけ

経営事項審査(経審)は、公共工事の入札に参加する建設業者が必ず受けなければならない審査制度です。建設業法第27条の23に基づき、国土交通大臣または都道府県知事が審査を実施します。

経審の結果は「総合評定値(P点)」として数値化されます。P点の計算式は以下のとおりです。

総合評定値(P点)の計算式
P = 0.25 × X1 + 0.15 × X2 + 0.20 × Y + 0.25 × Z + 0.15 × W
X1=完成工事高 / X2=経営規模 / Y=経営状況 / Z=技術力 / W=その他の審査項目(社会性等)
15%
P点に占めるW点のウェイト
2,061
W点の上限値
-1,995
W点の下限値

出典:国土交通省「経営事項審査の審査基準」

W点は5つの評点の中で唯一、マイナス値になりうる項目です。社会保険未加入の場合は1項目あたり-40点の減点が生じるため、未対策のままでは他の評点を打ち消す結果になります。逆に、安全管理や労働福祉の取組を着実に進めれば、比較的短期間で加点を積み上げられる項目でもあります。

W点の構成項目(W1〜W10)一覧

W点は以下の10項目で構成されています。安全管理に直接関係する項目を太字で示します。

項目 評価内容 安全管理との関連
W1 労働福祉の状況 社会保険加入、退職金共済、法定外労災
W2 営業継続の状況(営業年数) 間接的(長期経営は安全実績の蓄積)
W3 防災活動への貢献の状況 防災協定の締結有無
W4 法令遵守の状況 建設業法28条の処分有無(労災隠し含む)
W5 建設業の経理の状況 -
W6 研究開発の状況 安全技術の研究開発も対象
W7 建設機械の保有状況 -
W8 ISO等の規格登録の状況 ISO9001、ISO14001の登録有無
W9 若年技術者の育成確保の状況 担い手確保は安全文化の基盤
W10 知識・技術・技能の向上の取組 CPD単位の取得状況
W点対策の優先順位
W1(労働福祉)とW4(法令遵守)は安全管理と直結し、かつ加点・減点の幅が大きい項目です。この2項目への対策を最優先で進めることが、W点改善の基本戦略となります。

W1:労働福祉の状況と安全管理の加点

W1は労働者の福祉・安全に関する取組状況を評価する項目で、W点全体の中で配点の幅が最も大きい項目の一つです。社会保険の加入状況に加え、退職金制度や法定外労働災害補償制度の導入が評価されます。

W1の加点・減点項目と点数

評価項目 条件 点数影響
雇用保険の加入 未加入の場合 -40点
健康保険の加入 未加入の場合 -40点
厚生年金保険の加入 未加入の場合 -40点
建設業退職金共済(建退共) 加入・履行している場合 +15点
退職一時金制度・企業年金制度 導入している場合 +15点
法定外労働災害補償制度 要件を満たす保険に加入 +15点

出典:国土交通省「経営事項審査の審査基準」、各行政書士法人の公開解説資料を基に作成

3つの社会保険が全て未加入の場合、W1だけで-120点の減点となります。総合評定値P点に換算すると約-18点に相当し、入札参加資格の等級が1ランク下がる水準です。社会保険加入は加点ではなく「未加入で大幅減点」という構造のため、最低限の対策として全保険への加入が必須です。

法定外労働災害補償制度の加点要件

法定外労災とは、国の労災保険(政府労災)に上乗せして、事業者が独自に補償を行う制度です。経審で加点を受けるには、以下の5つの要件を全て満たす必要があります。

加点を逃しやすい落とし穴
法定外労災に加入していても、補償範囲が「業務災害のみ」で通勤災害が含まれていない場合や、下請負人の使用者が対象外となっている場合は加点されません。契約内容を保険会社・共済団体に確認し、5要件を満たしているかを審査基準日の前に必ず点検してください。

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W8:ISO登録と安全マネジメントの評価

W8は、ISO等の国際規格への登録状況を評価する項目です。現行の経審で加点対象となるのは以下の3つです。

規格 内容 加点
ISO9001 品質マネジメントシステム +5点
ISO14001 環境マネジメントシステム +5点
エコアクション21 環境経営の認証・登録制度 +3点

出典:国土交通省「経営事項審査の審査基準」

加点の条件として、認証範囲に「建設業」が含まれていること、かつ認証範囲が会社全体であることが必要です。一部の支店のみが認証を受けている場合は加点の対象外となります。

ISO45001は経審の直接加点対象ではない

ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)は、OHSAS18001を引き継いで2018年に発行された国際規格です。建設現場の安全管理体制を体系的に構築・運用するための規格であり、安全管理の水準向上には有効です。

ただし、2026年3月時点の経審において、ISO45001はW8の直接的な加点対象には含まれていません。加点対象はISO9001、ISO14001、エコアクション21の3つに限定されています。

ISO45001の間接的な効果
ISO45001は経審の直接加点にはならないものの、取得企業は安全管理の仕組みが整備されるため、労災の発生率低下につながります。労災発生による建設業法上の処分(W4での減点)を回避する間接的な効果が見込めます。発注者独自の総合評価方式で加点対象とする自治体もあるため、入札戦略全体での判断が求められます。

W4:法令違反による減点と労災隠しのリスク

W4は「法令遵守の状況」を評価する項目です。審査対象年に建設業法第28条に基づく処分を受けた場合、以下の減点が生じます。

処分内容 減点 P点への影響(概算)
営業停止処分 -30点 約-4.5点
指示処分 -15点 約-2.3点
処分なし 0点 影響なし

この減点は1年間継続します。営業停止処分と指示処分の両方を受けた場合は、合計-45点の減点となります。

労災隠しが経審に与える影響

「労災隠し」とは、労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出しない、または虚偽の報告を行う行為です。労働安全衛生法第100条違反として刑事罰(50万円以下の罰金)の対象になります。

建設業においては、労災隠しの刑罰確定後に建設業法第28条第1項第3号に基づく「指示処分」が出される場合があります。この処分が出ると、経審のW4で-15点の減点が発生します。さらに、国土交通省の地方整備局から指名停止処分を受ける可能性もあり、公共工事の受注機会が失われます。

労災隠しは「発覚しない」前提で行動してはならない
労働基準監督署は、医療機関からの情報や内部通報を端緒として調査を行います。労災を隠蔽した場合、発覚時の処分は報告した場合より格段に重くなります。労災が発生した場合は速やかに報告し、再発防止策を講じることが、経審の減点を最小限に抑える唯一の方法です。

安全管理の不備が招く処分の連鎖

重大な労働災害が発生した場合、以下のような処分が連鎖する可能性があります。

安全管理の不備は、現場の事故だけでなく、会社の経営基盤を直撃します。W4の減点を回避するためには、日常の安全管理体制を適切に維持し、法令違反を未然に防ぐことが不可欠です。

安全管理でW点を上げる実務ステップ

W点の安全管理関連項目で加点を最大化し、減点を回避するための具体的なステップを整理します。

加点を確保するための施策

減点を回避するための施策

加点施策の費用対効果
建退共の加入、法定外労災の契約、中退共の加入は、いずれも年間数十万円程度のコストで+15点ずつの加点を得られます。公共工事1件の受注利益と比較すれば、費用対効果は高い施策です。

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ご注意
本記事は一般的な参考情報であり、法的助言を提供するものではありません。経費・積算の計上方法や確定金額は、元請・積算担当者または所轄機関にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づき、最新の制度・基準と異なる場合があります。

まとめ

本記事の要点を整理します。

経審のW点対策は、書類上のテクニックではありません。日常の安全管理体制を法令に沿って整備し、その実績を記録として残すことが、結果としてW点の加点につながります。安全管理を「コスト」ではなく「公共工事受注のための投資」と捉え、計画的に取り組むことが経営者に求められています。

参考法令・資料