法令解説

建設業の36協定と時間外労働上限規制
|2024年問題の実務対応

2026年3月7日  |  読了目安 約10分  |  対象:経営者・安全管理者

2024年4月、建設業にも時間外労働の上限規制が適用された。改正労働基準法の施行から5年間の猶予期間が終了し、他業種と同じ厳格な残業規制が求められている。

しかし現場では「36協定の届出様式はどう変わったのか」「災害復旧工事は本当に適用除外なのか」「違反した場合の罰則はどの程度か」といった疑問が依然として多い。安全管理業務そのものが時間外労働の原因になっている現場も少なくない。

本記事では、建設業における36協定の締結実務時間外労働の上限規制を整理し、災害復旧の適用除外、罰則規定、安全管理業務の効率化による労働時間削減の方法を解説する。

目次
  1. 建設業の2024年問題とは何か
  2. 時間外労働の上限規制:具体的な数値と条件
  3. 36協定の締結・届出の実務手順
  4. 災害復旧事業の適用除外と注意点
  5. 違反時の罰則規定
  6. 安全管理業務の時間削減で上限規制に対応する
  7. 労働時間削減に役立つツール
  8. まとめ

建設業の2024年問題とは何か

2019年4月に施行された改正労働基準法は、時間外労働に法的な上限を設けた。大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月から適用が始まった。一方、建設業・自動車運転業務・医師については業務の特殊性を理由に5年間の猶予が認められていた。

この猶予期間が2024年3月31日で終了した。2024年4月1日以降、建設業でも時間外労働の上限規制が全面適用されている。これが「建設業の2024年問題」と呼ばれる背景である。

5
建設業に認められた猶予期間
45時間
月あたりの時間外労働上限(原則)
360時間
年間の時間外労働上限(原則)

建設業は天候・資材納入・工期など外部要因に左右されやすく、長時間労働が常態化しやすい。国土交通省の調査でも、建設業の年間労働時間は全産業平均を大きく上回っている。上限規制の適用により、工期管理と労務管理の両面で抜本的な見直しが求められている。

時間外労働の上限規制:具体的な数値と条件

改正労働基準法が定める時間外労働の上限は、原則と例外の二段構えになっている。建設業の経営者・安全管理者は、両方の基準を正確に把握する必要がある。

原則的な上限(36協定の範囲内)

36協定を締結・届出した場合でも、時間外労働は月45時間・年360時間が上限となる。この範囲内であれば、法律上の問題は生じない。

特別条項付き36協定の上限

臨時的な特別の事情がある場合に限り、特別条項付きの36協定を締結できる。ただし、以下の4つの条件すべてを満たさなければならない。

条件 上限値 備考
年間の時間外労働 720時間以内 休日労働は含まない
単月の時間外+休日労働 100時間未満 休日労働を含む合計
複数月平均の時間外+休日労働 80時間以内 2〜6か月の各平均で判定
月45時間超の回数 年6回以内 年間を通じた制限

出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制」リーフレット

「複数月平均80時間」の計算に注意
2か月・3か月・4か月・5か月・6か月のすべての期間で平均80時間以内を満たす必要がある。特定の月だけ確認するのでは不十分であり、連続する複数月の組み合わせすべてで判定される。

36協定の締結・届出の実務手順

時間外労働を行わせるには、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要がある。届出なしに時間外労働をさせた場合、たとえ1時間でも法律違反となる。

締結の当事者

36協定は、使用者と労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者との間で締結する。過半数代表者の選出手続きが不適切な場合、協定自体が無効になるリスクがある。

届出様式の選択

2024年4月以降、建設業が使用する届出様式は以下のとおりである。

区分 使用する様式
一般条項のみ(月45時間・年360時間以内) 様式第9号
特別条項あり(臨時的な特別の事情) 様式第9号の2
災害復旧・復興事業に従事する場合 様式第9号の3の2(新設)

出典:厚生労働省「36協定届の記載例」

届出のポイント
建設業では従来、猶予期間中に限り旧様式での届出が認められていた。2024年4月以降は猶予が終了したため、必ず新様式を使用する。電子申請(e-Gov)での届出も可能であり、事業場ごとの届出が原則となる。

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災害復旧事業の適用除外と注意点

建設業における時間外労働の上限規制には、災害時の復旧・復興事業に限定した適用除外が設けられている。ただし「すべて免除」ではない点に注意が必要である。

適用除外となる規定

災害復旧・復興事業に従事する場合、以下の2つの規定が適用除外となる。

適用除外にならない規定

災害復旧事業であっても、以下の規定は引き続き適用される。

労働基準法第139条(要旨)
工作物の建設の事業その他これに関連する事業として厚生労働省令で定める事業に関する災害時における復旧及び復興の事業に従事する場合は、第36条第6項第2号及び第3号の規定は適用しない。
「災害復旧」の範囲は厳格に解釈される
適用除外の対象は、自然災害(地震・台風・豪雨等)による被害の復旧・復興事業に限られる。通常の補修工事や経年劣化への対応工事は災害復旧に該当しない。該当するかどうか判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署に事前に確認することを推奨する。

違反時の罰則規定

時間外労働の上限規制への違反は、従来の行政指導にとどまらず、刑事罰の対象となる。これは建設業の2024年問題における最大の変化の一つである。

違反の内容 罰則 根拠条文
36協定なしに時間外労働をさせた場合 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 労基法第119条
36協定の上限を超えて時間外労働をさせた場合 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金 労基法第119条
36協定を届け出ていない場合 30万円以下の罰金 労基法第120条

出典:労働基準法第119条・第120条

罰則は事業者(法人)と実際に違反行為を行った管理者の双方に科される(両罰規定)。30万円という金額自体は大きくないが、書類送検された場合の企業名公表、公共工事の入札資格への影響は経営に直結する。

送検事例の傾向
厚生労働省は長時間労働に対する監督指導を強化している。過労死ラインを超える違法な時間外労働が確認された場合、是正勧告を経て改善が見られなければ書類送検に至るケースがある。建設業でも複数の送検事例が報告されている。

安全管理業務の時間削減で上限規制に対応する

建設業の時間外労働の内訳を見ると、現場作業だけでなく安全書類の作成・提出管理が相当な時間を占めている。KY活動表、作業計画書、新規入場者台帳、ヒヤリハット報告書など、日々発生する書類業務が管理者の残業を増やしている。

上限規制への対応策は「工期の延長」や「人員の増加」だけではない。既存業務の効率化による労働時間の圧縮が、すぐに着手できる現実的な対策である。

安全管理業務で削減できる時間の内訳

業務内容 従来の所要時間(目安) デジタル化後の所要時間
KY活動表の作成 15〜30分/日 3〜5分/日
新規入場者台帳の整理 20〜40分/件 5〜10分/件
作業計画書の作成 30〜60分/件 10〜15分/件
ヒヤリハット報告書の作成 15〜30分/件 3〜5分/件

安全管理業務をデジタルツールで効率化することで、月あたり数時間から十数時間の削減が見込める。これは上限規制への対応として直接的な効果をもたらす。

書類の質を落とさず時間を削減する
AI活用による安全書類の自動生成は、記載漏れや形式不備も同時に防止する。書類の質を維持しながら作成時間を短縮できるため、安全管理水準と法令遵守の両立が可能になる。

労働時間削減に役立つツール

安全管理業務の効率化を通じて時間外労働を削減するためのツールを紹介する。

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ご注意
本記事は一般的な参考情報であり、法的助言を提供するものではありません。労災保険・労務関連の申告・納付や個別の適用可否は、所轄の労働基準監督署・労働局・社会保険労務士等の専門家にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づき、最新の法令・通達と異なる場合があります。

まとめ

本記事の要点を整理する。

上限規制への対応は、単なる法令遵守にとどまらない。労働時間管理の適正化は、現場の安全水準の向上と人材の定着にも直結する。36協定の正確な締結と届出、労働時間の可視化、業務効率化の3つを柱に、自社の体制を見直すことが求められる。

参考法令・資料