法令

個人ばく露測定の義務化2026年
建設業の準備と対応ガイド

2026年3月7日  |  読了目安 約8分  |  対象:安全管理者

2026年4月以降、化学物質の自律的管理制度が本格的に動き出します。SDS(安全データシート)通知義務の拡大に加え、濃度基準値が設定された物質を取り扱う屋内作業場では個人ばく露測定による確認が求められるようになります。

建設業では塗装・防水・溶接など多くの工程で化学物質を使用します。しかし、作業場所が日々変わる建設現場では、従来の定点測定(A・B測定)だけでは作業者の実際のばく露量を把握しきれません。個人ばく露測定は、作業者の呼吸域で直接サンプリングする手法であり、建設業の実態に合った管理手法です。

本記事では、安全管理者が施行までに完了すべき準備事項を手順形式で整理します。

目次
  1. 個人ばく露測定義務化の背景と施行スケジュール
  2. 建設業で対象となる物質と作業
  3. 測定方法の基本:従来法との違い
  4. 施行までの準備5ステップ
  5. 記録の保存と報告義務
  6. 外部委託の手順と選定基準
  7. 準備チェックリスト
  8. 関連ツール紹介

個人ばく露測定義務化の背景と施行スケジュール

従来の化学物質管理は、特定化学物質障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則といった個別規則で物質ごとに規制する方式でした。しかし、規制対象外の物質による健康障害が後を絶たず、厚生労働省は「自律的な化学物質管理」への転換を決定しました。

この転換の柱の一つが、濃度基準値の設定と個人ばく露測定の義務化です。事業者は、リスクアセスメント対象物の濃度基準値を超えないよう管理し、その確認手段として個人ばく露測定を実施する責任を負います。

178物質
濃度基準値が設定された物質数(令和7年10月時点)
2026年4月
SDS通知義務拡大の施行日
8時間
TWA(時間加重平均)の基準時間

出典:厚生労働省「化学物質の自律的管理に関する省令改正」、日本作業環境測定協会

施行スケジュールの全体像

施行時期 主な内容
2024年4月 濃度基準値の遵守義務・リスクアセスメント結果に基づくばく露低減措置の義務化
2026年4月 SDS通知義務の対象物質拡大・成分含有量の記載強化
2026年10月 個人ばく露測定を行う者の要件明確化・測定精度の担保に関する省令施行
2026年4月から準備を開始すべき理由
個人ばく露測定の実施体制を整えるには、対象物質の洗い出し、測定機関の選定、測定計画の策定に数か月を要します。SDS通知義務が拡大する2026年4月の段階で準備に着手しなければ、10月の本格施行に間に合いません。

建設業で対象となる物質と作業

建設現場で使用頻度が高い化学物質のうち、濃度基準値が設定されている主な物質と典型的な作業を整理します。

物質名 典型的な使用場面 健康リスク
トルエン 塗装作業・接着剤の使用 中枢神経障害・肝機能障害
キシレン 塗装・防水工事 頭痛・めまい・皮膚障害
エチルベンゼン 塗料の溶剤・防水材 発がん性のおそれ
スチレン FRP防水・ライニング工事 呼吸器障害・神経障害
溶接ヒューム 鉄骨溶接・配管溶接 じん肺・肺がん
ホルムアルデヒド 内装工事・接着剤の使用 発がん性(鼻咽頭がん)

出典:建設業労働災害防止協会(建災防)「建設業における化学物質管理」

建設業特有の課題
塗装や防水作業では、作業者が移動しながら作業を行うため、発散源の位置が一定しません。定点測定ではばく露実態を正確に把握できず、作業者の呼吸域で測る個人ばく露測定が不可欠です。

測定方法の基本:従来法との違い

化学物質のばく露管理に用いる測定方法は、大きく分けて3種類あります。それぞれの特徴を理解したうえで、自社の作業実態に合った方法を選択する必要があります。

測定方法 測定対象 測定時間 特徴
A・B測定(従来法) 作業場の空気環境 10分以上 定点にサンプラーを設置。場の濃度を評価する
C・D測定(個人サンプリング法) 作業場の空気環境 C:2時間以上、D:15分 作業者に装着するが、場の評価が目的
個人ばく露測定 作業者個人のばく露量 作業時間全体(8時間TWA) 作業者の呼吸域で測定。個人のリスクを評価する
労働安全衛生規則 第577条の2(要旨)
事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者のばく露の程度が、当該物質の濃度基準値以下となるようにしなければならない。ばく露の程度の把握は、個人ばく露測定その他の適切な方法により行う。

C・D測定は作業環境測定の一手法であり、個人ばく露測定とは目的が異なります。C・D測定が「作業場全体の管理状態の評価」を目的とするのに対し、個人ばく露測定は「個々の作業者が濃度基準値を超えていないかの確認」を目的とします。

個人ばく露測定 準備チェックリスト

2026年4月施行に向けた準備事項を一覧化。対象物質の特定から外部委託先選定まで漏れなく確認できます。

チェックリストを入手する

施行までの準備5ステップ

安全管理者が施行日までに完了すべき準備を5つの手順に分解します。各ステップは前工程の完了が前提となるため、順番どおりに進めてください。

推定で判断できない場合に測定が必要
厚生労働省の指針では、まずCREATE-SIMPLEなどによる推定を行い、それでも濃度基準値以下であることを確認できない場合に、実測(個人ばく露測定)を行うとされています。全作業で測定が必要なわけではありません。

記録の保存と報告義務

個人ばく露測定を実施した場合、以下の事項を記録し保存する義務があります。

記録項目 保存期間 備考
個人ばく露測定の結果 3年間 特別管理物質は30年間
リスクアセスメントの結果 3年間 労働安全衛生規則第34条の2の8
ばく露低減措置の記録 3年間 措置の実施日・内容・効果の確認結果
特別管理物質は30年保存が必要
発がん性のおそれがある物質(エチルベンゼン、ホルムアルデヒドなど)は特別管理物質に該当します。この場合、測定結果の保存期間は30年に延長されます。建設業で頻繁に使用する塗料には特別管理物質が含まれることがあるため、必ずSDSで確認してください。

外部委託の手順と選定基準

建設業の多くの事業者は、自社に作業環境測定士を抱えていません。個人ばく露測定を外部機関に委託する場合の手順と、委託先の選定基準を整理します。

委託先選定の5つの基準

準備チェックリスト

施行までに完了すべき項目を一覧にまとめました。社内での進捗管理にご活用ください。

個人ばく露測定 準備チェックリスト

2026年4月施行に向けた準備事項を一覧化。対象物質の特定から外部委託先選定まで漏れなく確認できます。

チェックリストを入手する

関連ツール紹介

個人ばく露測定の準備と化学物質管理の実務を支援するツールを紹介します。

❇️

AnzenAI

建設現場の安全書類(KY表、作業計画書、リスクアセスメント記録など)をAIが自動生成。化学物質のリスクアセスメント結果の記録・管理にも対応し、測定計画の策定を支援します。

AI安全書類自動生成ツールを見る

WhyTrace

化学物質による健康障害やヒヤリハットが発生した際の原因分析に活用できる「なぜなぜ分析」専用ツール。ばく露超過の根本原因を体系的に掘り下げ、再発防止策の立案を支援します。

なぜなぜ分析ツールを見る
ご注意
本記事は一般的な参考情報であり、法的助言を提供するものではありません。法令の解釈・適用や個別事案への対応は、社会保険労務士・弁護士等の専門家、または所轄の労働基準監督署等の行政機関にご確認ください。記載内容は執筆時点の情報に基づき、最新の法令・通達と異なる場合があります。

まとめ

本記事の要点を整理します。

化学物質の自律的管理は、規制を守るだけの対応では不十分です。自社の作業実態を正確に把握し、作業者一人ひとりのばく露量を管理する体制を構築することが、健康障害の防止と法令遵守の両立につながります。

参考法令・資料