RAKYが求められる背景
建設業の労働災害は全産業の中でも依然として高い水準にあります。厚生労働省の発表によると、2024年(令和6年)の建設業における死亡者数は232人で、全産業の死亡者数の31.1%を占めています(厚生労働省「令和6年 労働災害発生状況」速報値)。死因別では墜落・転落が約3割を占め、高所作業を伴う建設現場特有のリスクが継続して顕在化しています。
こうした状況に対し、毎朝のKY活動(危険予知活動)だけでは「危険を感じた」「気をつける」といった主観的な記述にとどまり、対策の根拠や優先度が不明確なまま終わるケースが少なくありません。そこで注目されているのが、リスクアセスメント(RA)の考え方をKY活動に統合したRAKY(Risk Assessment KY)です。
労働安全衛生法第28条の2により、建設業を含む事業者にはリスクアセスメントの実施が努力義務として課されています(2006年4月施行)。RAKYはこの義務を日常の安全活動に落とし込む手法として、建設業労働災害防止協会(建災防)や厚生労働省の指針でも推奨されています。
KY活動との違い
従来のKY活動とRAKYの最大の違いは、リスクを数値で見積もるプロセスが入るかどうかです。KYが「危険を見つけて気をつける」という啓発活動であるのに対し、RAKYは「危険の大きさを測り、対策の優先度を決める」という管理活動の性質を持ちます。
| 比較項目 | 従来のKY活動 | RAKY(リスクアセスメントKY) |
|---|---|---|
| 目的 | 危険の気づきと意識向上 | 危険の定量評価と対策の優先付け |
| リスク見積もり | なし(感覚的な評価) | あり(頻度×重篤度で数値化) |
| 対策の根拠 | 経験・勘 | リスクレベルに基づく優先度 |
| 記録の活用 | 当日の掲示のみで終わりやすい | 対策前後のリスク変化を記録・管理 |
| 実施タイミング | 作業開始前のみ | 作業計画時+作業開始前 |
| 担い手 | 作業員全員(職長主導) | 職長+安全担当者が主導 |
RAKYは4ラウンド法(KYTの基本ステップ)にリスク評価の工程を加えた形で実施します。短い場合は5〜10分程度で完結させることができ、毎朝のTBM(ツールボックスミーティング)に組み込むことができます。
リスクの見積もり方法
RAKYで使われるリスク見積もりは、厚生労働省の「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(2006年)に基づく加算方式が現場での運用に適しています。「発生可能性」と「重篤度」を数値化し、合計でリスクレベルを判定します。
発生可能性の評価(頻度・確率)
| 点数 | 発生可能性の目安 |
|---|---|
| 4点 | 頻繁に発生する可能性がある(週1回以上の作業で起こりうる) |
| 2点 | 時々発生する可能性がある(月に数回程度) |
| 1点 | ほとんど発生しない(発生はまれ) |
重篤度の評価
| 点数 | 重篤度の目安 |
|---|---|
| 4点 | 致命的(死亡・身体の一部欠損・後遺障害) |
| 2点 | 重大(休業1ヶ月以上・骨折・複数の負傷) |
| 1点 | 軽微(不休・軽傷・応急処置で対応可能) |
リスクレベルの判定(加算方式)
発生可能性と重篤度の点数を合計してリスクレベルを判定します。
| 合計点 | リスクレベル | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 6〜8点 | レベル4(高) | 作業を中止し、直ちに対策を実施してから再開 |
| 4〜5点 | レベル3(中) | 速やかに対策を講じる(当日作業開始前まで) |
| 3点 | レベル2(中〜低) | 計画的に改善措置を検討する |
| 2点 | レベル1(低) | 注意事項を周知し、必要に応じて改善 |
リスクレベル4(合計6〜8点)に該当する危険を特定した場合、対策が完了するまで当該作業は実施しないことを原則とします。現場の状況によっては元請の安全担当者への報告も必要です。
RAKYの実施手順(5ステップ)
RAKYは以下の5ステップで進めます。毎朝のTBMに組み込む場合、全体で10〜15分程度が目安です。
その日の作業手順・使用機材・作業エリアを全員で確認します。初めて行う作業や変更が生じた作業は特に丁寧に共有します。
- 作業工程・担当者・使用機材を口頭で共有する
- 前日から変更になった点(天候・現場状況の変化など)を確認する
- 特殊作業(高所・電気・クレーン等)の有無を把握する
KYTの第1ラウンドに相当するステップです。「〇〇するとき、〇〇になる(〇〇する)」の形式で危険のポイントを複数挙げます。
- ひとりが発言するだけでなく、全員から意見を出す
- この段階では評価せず、まず挙げることを優先する
- 過去の災害事例・ヒヤリハット情報も参照する
例:「足場上で鉄筋を運搬するとき、バランスを崩して墜落する」
洗い出した危険のポイントごとに「発生可能性」と「重篤度」を評価し、リスクレベルを算出します。リスクレベル3以上を重点危険として絞り込みます。
- 職長が各メンバーの意見を聞きながら点数を決める(独断を避ける)
- リスクが高い項目から順に優先度をつける
- ワークシートに発生可能性・重篤度・合計点・レベルを記入する
重点危険に対して、具体的な対策を決定します。対策後の残留リスクも再度見積もり、許容できるレベル(レベル2以下)になるかを確認します。
- 対策は「〇〇する」と動詞で具体的に記述する(「注意する」は不可)
- リスクの低減は「除去→代替→工学的対策→管理的対策→保護具」の順で検討する
- 対策後もリスクが高い場合は、作業計画を見直すか元請に相談する
例(対策):「安全帯(フルハーネス)を使用し、親綱に接続する。運搬は二人一組で行う」
重点危険と対策を簡潔に行動目標にまとめ、全員で確認・唱和します。ワークシートにサインまたは押印し、当日の記録として保管します。
- 行動目標は短く・具体的に(例:「高所作業では必ずフルハーネスを装着、ヨシ!」)
- 指差し呼称で確認を徹底する
- ワークシートは作業終了後も保管し、次回以降のRAKYの参考にする
RAKYシートの作成をAIに任せてみませんか?
AnzenAIを使えば、作業内容を入力するだけでRAKYシートのドラフトをAIが自動生成します。職長・安全担当者の記入時間を大幅に削減できます。
無料でAnzenAIを試す 機能を見るAIでKY活動を体験してみよう
あなたの現場の作業内容を入力すると、AIが危険予知項目と対策を自動生成します。
AIでリスクアセスメントを体験
現場の状況を入力すると、AIがリスク評価と対策を自動生成します。
ワークシート記入例
以下は高所での型枠解体作業を想定したRAKYワークシートの記入例です。実際の現場では作業内容に合わせて危険のポイントを追加・修正してください。
| No. | 危険のポイント (〜するとき、〜になる) |
発生 可能性 |
重篤度 | 合計点 (RL) |
対策内容 | 対策後 リスク |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 解体材を手で持って移動するとき、足場板の欠損部で躓いて墜落する | 2 | 4 | 6点 RL4 |
作業前に足場板の点検を実施し、欠損・ガタつきは即補修。解体材の移動は二人一組で行い、手摺に常時接触できる範囲での作業に限定 | 3点 RL2 |
| 2 | 型枠解体ハンマーを振り下ろすとき、材が飛散して下層の作業員に当たる | 2 | 2 | 4点 RL3 |
下層作業区域を立入禁止とし、コーンとバリケートで明示。飛散防止ネットを設置する | 2点 RL1 |
| 3 | フルハーネスのランヤードが資材に引っかかるとき、バランスを崩して転落する | 2 | 4 | 6点 RL4 |
ダブルランヤードを使用し、移動時は先行付替えを徹底。フルハーネスの正しい装着状況を職長が作業前に目視確認する | 3点 RL2 |
| 4 | 解体資材を昇降口付近に仮置きするとき、開口部からの転落リスクが生じる | 1 | 4 | 5点 RL3 |
昇降口周辺への仮置き禁止を朝礼で周知。資材は指定の集積場所にのみ置く。開口部は作業時間以外は養生蓋で閉鎖する | 2点 RL1 |
行動目標(唱和):「高所作業ではフルハーネスを完全装着、先行付替えで移動する。ヨシ!」
ワークシートには「対策後のリスクレベル」も必ず記入します。対策を実施しても残留リスクがレベル3以上の場合は、追加対策を検討するか、元請の安全担当者に相談してください。対策前後のリスク変化を可視化することが、RAKYの本質的な価値です。
現場定着のためのポイント
職長のファシリテーション能力がカギ
RAKYの品質は職長のファシリテーション次第で大きく変わります。特定の人だけが発言する状況を避け、若手作業員からも危険のポイントを引き出す工夫が必要です。「この作業、どこが怖い?」という問いかけから始めると意見が出やすくなります。
点数はチームで決める
リスクの見積もりを職長が一人で決めると、実態とずれた評価になりがちです。発生可能性と重篤度の点数はメンバーの意見を聞きながら合議で決定し、「なぜその点数なのか」を簡単に説明できるようにしておきます。
過去のワークシートを蓄積・活用する
同じ種類の作業でも季節・天候・作業員の経験によってリスクレベルが変わります。過去のワークシートをファイルしておき、類似作業の参考資料として活用することで、危険の見逃しを防ぎます。建災防が公開している「建設業リスクアセスメント実施支援システム」(職場のあんぜんサイト内)には工種別の危険ポイント例が収録されており、RAKYの材料として活用できます。
形式化を防ぐための変化点管理
毎日同じワークシートの使い回しは、形骸化の最大の原因です。前日と異なる点(新規入場者・機材変更・工程の変更・天候)を必ずチェックし、変化があった場合はゼロから危険のポイントを洗い出す習慣をつけます。
「発生可能性」と「重篤度」の点数を根拠なく毎回2点・2点にしてしまい、全危険がリスクレベル2に集まるケース。これでは対策の優先度が見えません。特に墜落・転落リスクは重篤度を4点(致命的)で評価することを原則とし、その上で発生可能性を実態に即して評価してください。
RAKYに役立つ関連ツール
この記事で紹介した安全管理に役立つツール
参考資料・出典
- 厚生労働省「令和6年 労働災害発生状況について」(2025年公表)
- 厚生労働省「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成18年3月10日)
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「建設業におけるリスクアセスメントの実施支援システム」
- 建設業労働災害防止協会(建災防)「リスクアセスメント」
- (一財)中小建設業特別教育協会「リスクアセスメントの進め方」
- 厚生労働省「KYT基礎4R法」(社会全体の安全衛生水準の向上のための教育テキスト)