解説 / 安全管理者向け

建設業の安全成績の測定方法
【度数率・強度率の計算】

2026年3月4日   読了目安 13分

「わが社の安全水準は業界平均と比べてどのくらいか」という問いに、数字で答えられる安全管理者はどれほどいるだろうか。勘や経験に頼った安全評価から脱却し、統計指標に基づく客観的な管理に移行することは、安全成績を継続的に改善するための第一歩だ。

本記事では、建設業の安全管理で使われる三つの主要指標——度数率・強度率・年千人率——の計算方法を実務レベルで解説する。単なる公式の暗記にとどまらず、自社データの集め方、業界平均との比較の読み方、そして改善目標の設定まで、安全管理者がすぐに使える手順として整理する。

  目次
  1. 度数率の計算方法と読み方
  2. 強度率の計算方法と読み方
  3. 年千人率の計算方法と読み方
  4. 建設業の業界平均と比較する
  5. 改善目標の設定と活用
  6. 関連ツール
  7. まとめ

建設現場では「今月も事故なし」という結果が安全管理の成果として語られがちだ。しかし事故ゼロという結果は、潜在リスクの高さや工事規模の違いを無視した評価に過ぎない。500人が稼働する大規模工事で事故ゼロと、10人の小規模工事で事故ゼロでは、安全管理の水準は同じではない。

労働時間や作業員数に対して災害の発生頻度・重篤度を標準化した指標があれば、自社内の年度比較、複数現場間の比較、業界平均との比較が初めて意味を持つ。度数率・強度率・年千人率は、まさにその目的のために厚生労働省が定義・使用している統計指標だ。

218
建設業の死亡者数(2024年)
全産業中最多
出典:厚労省 2024年労働災害発生状況
12,775
建設業の休業4日以上死傷者数
(2024年)前年比548人減
出典:厚労省 2024年労働災害発生状況
1.69
総合工事業の度数率(令和5年)
前年(1.47)から上昇
出典:厚労省 労働災害動向調査
0.29
総合工事業の強度率(令和5年)
前年(0.22)から上昇
出典:厚労省 労働災害動向調査
根拠・定義の出典
度数率・強度率・年千人率の定義は、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」(安全衛生キーワード)に公式に掲載されている。各指標は毎年実施される「労働災害動向調査」(事業所規模100人以上)で産業別に集計・公表されており、建設業の比較基準として利用できる。

度数率の計算方法と読み方

度数率(Frequency Rate)は、延べ100万実労働時間当たりの労働災害による死傷者数を表す指標だ。どれだけの頻度で災害が発生しているかを示すため、規模の異なる現場・会社間で横並び比較ができる。

  度数率の計算式
度数率 = 労働災害による死傷者数 ÷ 延べ実労働時間数 × 1,000,000
・死傷者数:休業1日以上の労働災害で被災した作業員数
・延べ実労働時間数:集計期間中の全作業員の実働時間を合計した時間数
・乗数:100万(1,000,000)

計算例:月次集計の場合

項目 数値
集計期間 2025年4月〜12月(9か月)
平均作業員数 150人
1人平均月間実労働時間 160時間
延べ実労働時間数 150人 × 160時間 × 9か月 = 216,000時間
休業1日以上の死傷者数 3人
度数率 3 ÷ 216,000 × 1,000,000 = 13.89

この例の度数率13.89は、総合工事業の令和5年平均(1.69)と比べて著しく高い。発生件数が3件という絶対数では「少ない」と感じるかもしれないが、規模を考慮した指標で評価すると業界平均を大きく上回っていることがわかる。

「不休災害」も別途把握する
度数率の分子となる死傷者数は通常「休業1日以上」を指すが、厚生労働省の労働災害動向調査では「全度数率」(休業を伴わない不休災害を含む)と「不休災害度数率」の両方が公表されている。不休災害を含めた全度数率を把握すると、ヒヤリハット寸前の事案も含む安全水準の実態がより正確に見えてくる。

度数率の集計で注意すべき点

強度率の計算方法と読み方

強度率(Severity Rate)は、延べ1,000実労働時間当たりの労働損失日数を表す指標だ。度数率が「どれだけ頻繁に事故が起きるか」を示すのに対し、強度率は「事故がどれだけ重篤か」を示す。骨折で数日休業した場合と死亡災害では、強度率に大きな差が生まれる。

  強度率の計算式
強度率 = 労働損失日数の合計 ÷ 延べ実労働時間数 × 1,000
・労働損失日数:ILO基準に基づく換算日数(下表参照)
・延べ実労働時間数:度数率と同じ分母
・乗数:1,000

労働損失日数の換算基準

強度率の計算では、被災内容ごとに決められた換算日数(労働損失日数)を使う。実際の休業日数をそのまま使うのではなく、ILO基準に基づいた統一の換算値を用いることで、異なる事業場間の比較が可能になる。

被災内容 労働損失日数
死亡 7,500日
永久全労働不能(障害等級1〜3級相当) 7,500日
永久部分労働不能(障害等級4〜14級相当) 50〜5,500日(等級に応じて設定)
一時労働不能(休業) 実休業日数 × 300/365
死亡1件で強度率が急変する
一時休業なら休業日数の0.82倍程度の損失日数だが、死亡災害は一律7,500日が計上される。たとえば前年まで強度率0.10前後で推移していた会社でも、死亡災害が1件発生すると一気に1.0を超えることがある。強度率が急騰した年は死亡・重篤災害の発生を疑い、その要因分析を優先すべきだ。

計算例:強度率

発生事案 内容 労働損失日数
墜落事故A 足首骨折・休業30日(一時労働不能) 30日 × 300/365 ≒ 25日
挟まれ事故B 指切断・障害等級10級 600日(等級10級の換算値)
転落事故C 死亡 7,500日
合計 8,125日

上記の3件を延べ実労働時間数1,200,000時間の現場で集計した場合:
強度率 = 8,125 ÷ 1,200,000 × 1,000 = 6.77

これは総合工事業の令和5年平均(0.29)の20倍超に相当し、死亡災害1件が指標に与える影響の大きさを示している。

年千人率の計算方法と読み方

年千人率は、1年間に作業員1,000人当たり何人が労働災害で死傷したかを示す指標だ。延べ実労働時間の把握が難しい場合や、経営層・社外向けに安全実績をシンプルに伝えたい場面で使いやすい。

  年千人率の計算式
年千人率 = 1年間の死傷者数 ÷ 年間平均労働者数 × 1,000
・死傷者数:1年間の休業1日以上の死傷者数
・年間平均労働者数:1月〜12月の各月末在籍者数の平均
・乗数:1,000

度数率・強度率との使い分け

指標 何を測るか 使いやすい場面 弱点
度数率 災害の発生頻度(100万時間当たり) 現場間の頻度比較・経年管理 重篤度が反映されない
強度率 災害の重篤度(1,000時間当たり損失日数) 重大災害の傾向把握・目標設定 死亡1件で値が跳ね上がりブレが大きい
年千人率 年間死傷者数(1,000人当たり) 経営報告・発注者への説明・外部比較 労働時間の違いが反映されない
三指標を組み合わせて評価する
度数率が低くても強度率が高ければ、頻度は少ないが重大な災害が発生していることを示す。逆に度数率が高くても強度率が低い場合は、軽傷事案が多発している状態だ。三つの指標を並べて見ることで、自社の安全課題の性質——「頻度問題か、重篤度問題か」——が明確になる。

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建設業の業界平均と比較する

自社の度数率・強度率を算出しても、比較基準がなければ水準の高低を判断できない。業界平均値は、厚生労働省「労働災害動向調査」(毎年実施、事業所規模100人以上対象)で産業別に公表されている。

建設業の主要指標(最新公表値)

業種 度数率(令和5年) 強度率(令和5年)
調査産業計(全産業) 2.14 0.09
建設業(総合工事業) 1.69 0.29
製造業 1.29 0.06
運輸業・郵便業 4.57 0.11

出典:厚生労働省「令和5年 労働災害動向調査」(事業所規模100人以上)。令和6年以降のデータは公表次第、最新値に更新すること。

建設業(総合工事業)の度数率1.69は全産業計(2.14)を下回るが、強度率0.29は全産業計(0.09)の3倍以上だ。これは、建設業では一旦災害が発生すると死亡・重篤につながりやすいことを意味する。墜落・転落という災害の性質が強度率に直接表れている。

業界平均の見方:平均値以下なら安全?
業界平均はあくまで「現状の業界水準」であり、「安全であることの証明」ではない。建設業の強度率0.29は業界平均として存在するが、死亡者218人(2024年)という絶対数は依然として全産業最多だ。業界平均と比べて優位であっても、改善の余地がないという意味にはならない。

比較時の注意事項

改善目標の設定と活用

指標を算出したら、次は改善目標の設定だ。「去年と同じ」「事故ゼロ」という定性的な目標ではなく、度数率・強度率の数値目標を安全衛生管理計画に明記することで、進捗管理とPDCAサイクルが機能し始める。

改善目標の設定ステップ

  1. 過去3〜5年分の自社指標を集計する
    年ごとの度数率・強度率・年千人率の推移を出す。悪化した年・改善した年それぞれの背景(工事規模、主要事故の有無)を照合し、傾向を把握する。
  2. 業界平均との乖離を確認する
    自社の各指標が業界平均(厚労省・建災防)の何倍か・何割かを算出する。「全産業計の度数率より30%高い」など定量的に把握することで、優先的に取り組む指標が絞れる。
  3. 達成可能な数値目標を設定する
    直近3年平均より10〜20%改善を初期目標とするのが現実的だ。ゼロ目標は望ましいが、指標値をゼロにするよりも「業界平均未満を維持する」という方向性で設定すると、毎年の達成度を評価しやすい。
  4. 目標値を安全衛生管理計画に明記する
    建災防の「建設業労働安全衛生マネジメントシステム(COHSMS)」に基づく安全衛生計画書には、数値目標とその達成手段を記載する欄がある。目標を書面に残すことで、経営者・現場監督・安全担当者が同じ数字を共有できる。
  5. 月次・四半期で実績値を追いかける
    年次目標だけでは途中経過が見えない。月次または四半期ごとに累計の度数率・強度率を算出し、目標進捗を確認する。大幅に悪化している場合は要因分析と対策を追加する。

大手建設会社の目標値設定例

大手ゼネコンの中には、年次安全衛生計画に度数率の数値目標を明示している企業がある。例として「死亡災害ゼロ、度数率0.40未満」という目標を設定する会社があり(出典:一部大手建設会社の安全衛生報告書より)、業界平均(1.69)の約4分の1という水準を中長期目標に据えている。現場規模が大きいほど延べ実労働時間の蓄積が多くなり、指標としての安定性が増す。

「目標未達」は責めるためではなく分析するために使う
安全指標の目標が未達になった場合、それは「もっと頑張れ」という叱責の根拠にするのではなく、「どの作業・どの時期・どの事故類型が原因か」を掘り下げるためのシグナルとして使う。指標の悪化を分析につなげる文化を現場に根付かせることが、指標管理の本質的な価値だ。

指標管理で見落としがちな盲点

落とし穴 具体的なリスク 対応策
度数率だけを管理する 軽傷は減っても死亡・重篤が増えている状態を見逃す 強度率を必ずセットで管理する
休業日数を過小報告する 強度率が実態より低く算出され、改善したように見える 労災申請記録と突合して正確な休業日数を使う
小規模現場を除外して集計する 危険な小規模現場のリスクが指標に反映されない 原則として自社管理の全現場を対象に集計する
年次指標のみで判断する 季節・工種・作業フェーズによる変動を見逃す 四半期・月次の推移グラフを補助指標として活用する

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関連ツール

安全成績の指標管理を実務で回すには、災害記録・パトロール結果・ヒヤリハット情報を継続的にデジタルで蓄積する仕組みが必要だ。以下のツールは、データ収集から分析・再発防止まで安全管理サイクル全体を支援する。

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まとめ:指標は測るためではなく改善するために使う

度数率・強度率・年千人率は、建設業の安全成績を客観的に評価するための標準指標だ。計算式そのものはシンプルだが、正確なデータ収集・業界平均との比較・目標設定への落とし込みという一連の流れを継続することに価値がある。

  1. 度数率で「頻度」を測る
    死傷者数 ÷ 延べ実労働時間 × 100万。規模を問わず横並び比較が可能。建設業(総合工事業)令和5年平均は1.69(出典:厚労省 労働災害動向調査)。
  2. 強度率で「重篤度」を測る
    労働損失日数 ÷ 延べ実労働時間 × 1,000。死亡=7,500日換算。建設業(総合工事業)令和5年平均は0.29で、全産業計(0.09)の3倍超(出典:同)。
  3. 年千人率で「経営報告」に使う
    死傷者数 ÷ 年間平均労働者数 × 1,000。計算が簡便で、経営層・発注者への報告に適した指標。
  4. 業界平均と比較して自社の位置を把握する
    厚労省の労働災害動向調査(産業別)と建災防の統計を参照し、自社が業界平均の何倍かを数値で把握する。
  5. 安全衛生管理計画に数値目標を明記し、月次で追う
    直近3年平均比10〜20%改善などの目標を設定し、四半期・月次で進捗を確認する。悪化時は即座に要因分析と対策を実施する。

建設業では死亡災害の発生数が依然として全産業中最多だ。指標管理は、この現実に向き合うための最低限のツールだ。「事故がなかった年は安全だった」という定性的な評価を脱し、数値に基づく継続的改善の仕組みを現場に定着させることが、安全管理者に求められている。

参考資料・出典

・厚生労働省「職場のあんぜんサイト 安全衛生キーワード:度数率、強度率、年千人率」(anzeninfo.mhlw.go.jp

・厚生労働省「令和5年(2023年)労働災害動向調査 結果の概要」(2024年5月公表)

・厚生労働省「令和6年(2024年)労働災害発生状況について」(速報)

・厚生労働省「令和5年の労働災害発生状況を公表」(2024年5月31日)

・建設業労働災害防止協会(建災防)「建設業における労働災害発生状況」(kensaibou.or.jp

・労働政策研究・研修機構(JILPT)「労働災害をめぐる最新状況」ビジネス・レーバー・トレンド 2024年7月号

・建設業労働災害防止協会「建設業労働安全衛生マネジメントシステム(COHSMS)」