2024年4月、建設業への時間外労働の上限規制がついに適用された。違反すれば6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則付きだ。しかし現場管理者の多くが直面しているのは、「残業を減らせ」と言われながら、安全書類の作成・安全パトロール・各種教育記録といった安全管理業務の量は一向に変わらないという現実だ。
安全管理を削れば労働災害リスクが上がる。残業を続ければ法令違反になる。この二重のプレッシャーを解消するための具体策が、本記事のテーマだ。安全書類のデジタル化、パトロールの効率化、ITツールの活用による時短アプローチを、実務で使える形に整理する。
2019年4月に一般業種に適用された時間外労働の上限規制は、建設業に対して5年間の猶予が設けられていた。その猶予期間が2024年3月末で終了し、同年4月1日から罰則付きの上限規制が建設業にも完全適用されている(出典:厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」)。
建設業では、従来から適用されていた「工事の完成に関する業務」の例外が残っている点にも注意が必要だ。災害復旧・復興工事については、「月100時間未満」「複数月平均80時間以内」の規定の適用が除外されている。ただし、それ以外の通常工事にはすべて上限規制が適用される。
建設業で安全管理業務が時間を取る理由は明確だ。法令が定める安全書類の種類は多く、グリーンファイル(労務安全書類)だけでも施工体制台帳、作業員名簿、安全衛生計画書など17種類以上に上る。これに加えて、日常の安全パトロール記録、KYシート、ヒヤリハット報告書、特別教育記録といった日次業務が積み重なる。
厚生労働省の2024年労働災害発生状況によると、建設業の死亡者数は218人と前年比で増加に転じた。2024年4月以降、残業規制への対応を優先するあまり安全管理の質が低下しているとすれば、本末転倒だ。
安全書類(グリーンファイル)の作成・管理は、建設現場の安全管理業務の中で最も時間を消費する作業のひとつだ。協力会社から収集した書類に記入漏れがあれば差し戻し、保管場所を探すだけで時間が取られ、次の工事のために過去書類を参照しようとすると書庫を漁ることになる。
| 業務フェーズ | 紙運用の問題 | 月間ロス時間の目安 |
|---|---|---|
| 書類収集・チェック | 協力会社への催促、記入漏れの差し戻し、記載内容の目視確認 | 10〜20時間 |
| 書類保管・整理 | ファイリング、保管スペースの確保、破損・紛失リスク | 3〜8時間 |
| 情報検索・転記 | 過去書類の照合、同一情報の複数書類への手書き転記 | 5〜10時間 |
| 報告書作成 | 元請への提出用書類の再作成、フォーマット変換 | 5〜12時間 |
上記はあくまで目安だが、月30〜50時間の業務時間が書類管理に費やされているケースは決して珍しくない。これを半減するだけで、残業時間の削減に直結する。
すべての書類を一度に電子化しようとすると混乱する。優先度を以下の順番で進めるのが現実的だ。
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AnzenAIを試す(無料) 機能を見る安全パトロールは法令上の義務があり(安全衛生責任者・元方安全衛生管理者の職務として労働安全衛生法に規定)、省略できる業務ではない。しかし、パトロールの実施方法と記録作業を見直すことで、同じ安全水準を維持しながら所要時間を短縮することは可能だ。
| 工程 | 紙・口頭対応時の問題 | 改善アプローチ |
|---|---|---|
| チェックリスト準備 | 毎回印刷・配布。工種変更時に差し替えが必要 | スマートフォンアプリで工種別テンプレートを即呼び出し |
| 不適合箇所の記録 | 手書きメモ+後から写真整理+報告書作成で1〜2時間 | 現場でその場に写真+コメント入力。報告書は自動生成 |
| 是正指示の共有 | 紙の指摘書を職長へ手渡し→口頭確認→完了確認のやり取り | アプリで担当者に直接通知。是正完了もアプリ上で報告・確認 |
| 記録の保管・報告 | パトロール記録を綴じてファイル保管。元請への定期報告は別途作成 | クラウド自動保存。期間集計・傾向分析も自動出力 |
国土交通省がi-Construction 2.0で推進する「施工管理のオートメーション化」の流れに合わせ、一部の点検業務を遠隔カメラや360度カメラで補完する動きが広がっている。全工区を毎日人が歩いてチェックするのではなく、定点カメラの映像確認と現地パトロールを組み合わせることで、担当者の移動時間と拘束時間を削減できる。
紙運用で最も時間を奪われるのが、「現場でメモ→帰社後にパソコンで清書・報告書作成」という二度手間だ。スマートフォンアプリで現場でその場に記録を完結させれば、帰社後の書類作業は原則ゼロになる。是正指示の送付・完了確認もアプリ内で完結するため、メールや電話でのやり取りも削減できる。
新規入場者教育・特別教育・職長教育・日々のKY(危険予知)活動は、どれも建設現場の安全確保に不可欠な業務だ。しかし「教育のための準備時間」と「実施後の記録作成時間」に過大なコストがかかっている現場は多い。
KY活動は毎朝実施する日次業務のため、記録の作成・保存に費やす時間の累積が大きい。スマートフォンで入力し、クラウドに自動保存する仕組みに切り替えれば、1回あたり5〜10分の書類化作業が不要になる。月20〜22日施工とすると、月間100〜220分(最大3時間半強)の削減効果が見込める。
安全管理業務の効率化は、ツールの導入だけでは完結しない。管理者・職長の業務分担の見直しと、情報共有の仕組みをセットで整備することが必要だ。
現在、安全担当者や現場監督一人が安全書類作成のほぼすべてを抱えているケースがある。協力会社が自社書類の入力・提出を直接行う運用に切り替えることで、元請側の工数を大幅に削減できる。デジタルツールを共通基盤として使えば、入力フォーマットの統一と記入内容の自動チェックが同時に実現する。
パトロールで指摘した不適合事項の「是正されたかどうか」を口頭・電話・メールで追いかけている現場は、そのフォローアップだけで毎週数時間を消費している。是正状況を一覧管理し、完了報告をアプリ上で受け取る仕組みに変えれば、個別の確認作業がなくなる。
経営者・管理者に向けた視点として、「残業を減らしても安全水準が下がっていない」ことを定量的に示す仕組みが重要だ。パトロール実施回数・是正完了率・ヒヤリハット件数・KY実施率などの指標をデジタルで自動集計・グラフ化できれば、働き方改革の取り組みと安全管理の実績を並べて経営層や発注者に報告できる。
残業上限規制への対応で最低限必要なのは、労使間の36協定の締結・届出と、正確な労働時間記録の整備だ。「残業した事実を記録していない」「労働時間の把握が本人申告頼み」という状態では、法令遵守の証明ができない。勤怠管理システムの導入やタイムカードの整備と、安全管理のデジタル化を同時に進めることで、管理コスト全体を一本化できる。
AnzenAIは、KYシート・パトロール記録・是正管理をクラウドで一元管理。残業を減らしながら安全水準を維持できている証拠を、経営層・発注者に即座に示せます。
AnzenAIを使ってみる働き方改革と安全管理の両立を実現するには、記録・共有・分析をデジタルで回す仕組みが前提になる。以下のツールを組み合わせることで、業務時間の削減と安全水準の維持を同時に進められる。
建設業の残業上限規制対応と安全管理の両立は、「どちらを優先するか」という問題ではない。安全管理業務の中に潜む「非付加価値時間」を特定し、デジタル化・自動化・分担見直しによって取り除くことが、唯一の解だ。
建設業の残業上限規制は、現場にとって制約ではなく、業務プロセスを根本から見直す機会でもある。安全管理のデジタル化を足がかりに、現場全体の生産性向上につなげていく取り組みが求められている。
参考資料・出典
・厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」(2024年4月適用)
・厚生労働省「毎月勤労統計調査」2024年平均結果(2025年2月公表)
・厚生労働省「令和6年(2024年)労働災害発生状況について」(速報)
・建設業労働災害防止協会(建災防)「建設業における労働災害発生状況」
・国土交通省「i-Construction 2.0の2025年度の取組予定」
・国土交通省「建設業法等の改正について」(2025年施行)
・日本建設業連合会「時間外労働上限規制対応」
・労働基準法 第36条(e-Gov 法令検索)
・労働安全衛生法 第15条・第16条(元方安全衛生管理者・安全衛生責任者の職務)