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建設現場の冬季安全対策
【凍結・積雪・低体温症】

2026年3月4日  |  読了約10分  |  対象:現場監督・安全管理担当者

厚生労働省の統計によれば、建設業の労働災害死亡者数は令和6年(2024年)に218人に達し、全産業中で最多を占めた(厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」、2025年3月公表)。そのうち、冬季には「転倒」「墜落・転落」が集中しやすく、長野労働局の資料では1月の発生件数は他の月と比較して大幅に多いと明記されている(長野労働局「冬季における労働災害防止」)。

路面凍結、積雪による足場の変状、寒冷環境下での低体温症リスク——これらは夏場にはほぼ発生しない、冬季特有の複合リスクだ。現場監督が「例年通りやってきた」という経験則だけで乗り切ろうとすると、気象条件の想定外変化でヒヤリハットが重大事故に発展する。本記事では、法令根拠を踏まえながら、現場ですぐに運用できる具体的な対策を解説する。

218
建設業 死亡者数(2024年)
全産業中最多
1万2,775
建設業 死傷者数(2024年)
休業4日以上
1
冬季災害が集中する月
凍結・積雪が主因

出典:厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」(2025年3月公表)/長野労働局「冬季における労働災害防止」(2021年)

目次
  1. 冬季に増える労働災害の構造
  2. 路面凍結対策:通路と車両動線の管理
  3. 積雪時の足場・高所作業管理
  4. 低体温症の予防と応急処置
  5. 防寒装備の選定と支給基準
  6. 冬季向け朝礼・KY活動のポイント
  7. 法令・根拠条文の整理

1. 冬季に増える労働災害の構造

冬季の建設現場は、気温・天候の変化が災害の「引き金」になりやすい環境だ。降雪・凍結が原因となる事故の類型は主に三つに分類できる。

事故の型 主な発生場面 冬季特有の要因
転倒 通路・駐車場・仮設道路 路面凍結、雪による段差の隠蔽
墜落・転落 足場・梯子・屋根 足場板の凍結・積雪、防護板の重量増加
健康障害 屋外長時間作業、休憩不足 低体温症、凍傷、寒冷による判断力低下

令和6年の全産業統計では「転倒」による死傷者が3万2,773人と最多となっており(前年比330人増)、冬季はこの数字をさらに押し上げる季節要因として機能している(厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」)。

注意:「転倒」は軽傷に見えても、腰椎圧迫骨折・頭部打撲・後遺障害につながる例が多い。高齢技能者が多い建設現場では特に転倒一件が長期休業・廃業につながるケースを念頭に置いた対策が必要だ。

2. 路面凍結対策:通路と車両動線の管理

現場内の通路・資材置き場・駐車スペースは、夜間の気温低下で一気に凍結する。早朝の朝礼前・作業開始前の点検が第一の防衛ラインとなる。

凍結防止の実務手順

凍結防止剤の選定:塩化カルシウムは即効性があるが、鉄筋腐食リスクがある。鉄筋コンクリート構造物周辺では、酢酸カリウム系や塩化マグネシウム系の低腐食タイプを選ぶこと。建材・仮設鉄骨への影響を事前に確認されたい。

除雪作業時の安全管理

積雪後の除雪は、重機・手作業を問わず二次災害が起きやすい。除雪機の回転部分に詰まりが生じた際は必ずエンジンを止め、回転が完全に停止してから対処する。棒などで詰まりを解消しようとして巻き込まれる事故が毎冬報告されている(住宅金融普及協会「除雪作業による事故と防止策」参照)。作業区域に関係者以外を立ち入らせない措置も徹底する。

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3. 積雪時の足場・高所作業管理

足場上の積雪は見た目以上に危険だ。薄く見える雪でも作業床が凍結していれば瞬時に滑落につながる。厚生労働省の鳥取労働局資料では、積雪・凍結時には気象情報に十分注意し、悪天候時には作業を中止すること、凍結の融解時にも点検を実施することが明記されている(鳥取労働局「建設業における積雪・凍結時の労働災害防止対策」)。

足場の積雪・凍結点検チェックリスト

根拠:労働安全衛生規則 第567条
事業者は、強風、大雨、大雪等の悪天候若しくは中震以上の地震又は足場の組立て、一部解体若しくは変更の後において、足場における作業を行うときは、作業を開始する前に、足場の点検者を指名し、当該足場について異常の有無を点検しなければならない。

安衛則567条に基づく点検は「大雪後」だけでなく、「凍結融解後」も対象となる。融けたと思ったタイミングで再凍結が起きることも多く、午後以降の再点検が有効だ。

積雪時の高所作業中止基準の目安

気象条件 対応方針 参考根拠
積雪が足場板上に1cm以上 除雪完了・凍結確認後まで作業中止 安衛則 第522条(悪天候時の作業中止)
気温 −5℃以下 金属部材の脆性破壊リスク。点検強化・暖機措置 建設業労働災害防止規程
凍結融解が繰り返される日 午後に再凍結確認の追加点検を実施 鳥取労働局指導資料(2023年)
視界不良・降雪中 高所作業を一時中断。安全帯確認後に再開 安衛則 第522条

4. 低体温症の予防と応急処置

低体温症は深部体温が35℃未満に低下した状態を指す(MSDマニュアル)。健康な成人でも、濡れた衣服・風・長時間の静止作業が重なると短時間で発症する。建設現場では「少し体が震える」段階で既に初期症状が始まっている場合がある。

低体温症の症状と段階

深部体温 症状 現場での対応
32〜35℃(軽症) 激しいシバリング(震え)、判断力低下、動作の鈍化 作業中断・屋内移送・着替え・保温
28〜32℃(中等症) 震えが止まる、意識混濁、心拍・呼吸が遅くなる 救急要請・AED準備・毛布で保温
28℃未満(重症) 昏睡・心停止リスク CPR実施・救急搬送(急激な加温は厳禁)
重要:中等症以降で震えが「止まった」ときは回復ではなく悪化のサインだ。震えが止まったら即座に119番通報し、搬送まで保温を続ける。温かい飲み物は意識がはっきりしている軽症者にのみ与える。アルコール・カフェイン飲料は厳禁。急激な加温(熱い湯・熱源への直接接触)は心室細動を誘発するため行ってはならない。

予防の基本三原則

ポイント:低体温症の予防と凍傷対策は重なる部分が多い。手先・足先・耳・鼻など末梢部位の感覚が鈍くなったらウォームアップの合図。凍傷は患部を強くこすらず、体温で緩やかに温める。

5. 防寒装備の選定と支給基準

適切な防寒装備は事故防止と生産性維持を両立させる投資だ。重ね着の基本は「3層構造」——インナー・ミドルレイヤー・アウターの役割を理解した上で選定する。

3層構造の考え方

レイヤー 役割 推奨素材・機能 建設現場での注意点
インナー(第1層) 発汗の吸湿・速乾、体温保持 ポリエステル系発熱素材(吸湿発熱タイプ) 綿素材は濡れると冷えるため不可
ミドルレイヤー(第2層) 断熱(空気層の維持) フリース・ダウンベスト・中綿ジャケット 作業動線を妨げない細身シルエットを選ぶ
アウター(第3層) 防風・防水・視認性確保 透湿防水素材、高視認性反射材付き 夜間作業・薄暮時は高視認性(蛍光色)必須

部位別の防寒装備ポイント

支給・貸与の管理:防寒具を現場支給する場合は、労働安全衛生法第22条に基づく「健康障害防止措置の義務」の一環として整理できる。支給記録を残し、損耗時の交換ルールも定めておくこと。

6. 冬季向け朝礼・KY活動のポイント

冬季の安全対策は設備・装備だけでは機能しない。毎朝のKY活動(危険予知活動)に冬季固有のリスク確認を組み込むことで、作業員の意識を持続させることができる。

朝礼でチェックすべき冬季項目

KYシートへの冬季リスク記入例

KYシート記入例(足場上の外壁工事)
【危険のポイント】
① 足場板に薄氷が張っており、朝一番の昇降時に滑落する危険がある
② 保温のため厚手グローブを着用しており、つかみ動作が不十分になりやすい
③ 昼過ぎに気温上昇で融雪→夕方に再凍結するおそれがある

【行動目標】
「足場板の除雪・凍結確認完了を全員で確認してから昇る!」

KY活動は形式化しやすいが、冬季リスクを「今日の現場の具体的な状況」と結びつけて記述することで、参加者の行動変容につながりやすくなる。AIツールを使って当日の天候・工種・作業員構成からKYシートの雛形を自動生成する方法も普及しつつある。

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7. 法令・根拠条文の整理

冬季安全対策に関連する主な法令・指導規程を整理する。現場で「なぜその対策をするのか」を作業員に説明する際にも役立てられたい。

根拠法令・規程 主な内容
労働安全衛生規則 第522条 強風・大雨・大雪などの悪天候時における高所作業の中止義務
労働安全衛生規則 第567条 悪天候後・足場変更後の足場点検義務(点検者の指名含む)
労働安全衛生法 第22条 事業者による健康障害防止措置の義務(低体温症・凍傷対策の根拠)
建設業労働災害防止規程(建災防) 積雪・凍結時の作業管理・気象情報の確認・悪天候時の作業中止基準
厚生労働省指導資料(各労働局) 凍結防止剤の使用・標識設置・除雪時の安全管理の具体的指針
建災防の会員事業者は:労働災害防止団体法により、建設業労働災害防止規程の遵守義務が課される。規程には冬季の積雪・凍結対策として「本格的な寒波前に安全衛生委員会で対策を審議し、11月末までに用具確保・設備点検・作業員への注意喚起を完了させること」が定められている(建災防「建設業労働災害防止規程」)。

まとめ:冬季安全管理の優先順位

冬季の建設現場安全対策は、大きく「設備・環境面」「装備面」「行動・教育面」の三つに整理できる。特に重要なのは、対策を「年に一度の準備」で終わらせず、天候の変化に合わせて日々更新することだ。

参考資料・出典