国内の外国人労働者数は2024年10月末時点で2,302,587人(前年比約25万人増)に達し、統計開始以来最多を更新しました。建設業はその中でも受け入れが急拡大している産業の一つで、2023年10月時点の建設業従事外国人労働者は177,902人(全産業の約7.7%)となっています。
出典:厚生労働省「外国人雇用状況」届出状況(2024年10月末時点)
厚生労働省「令和5年 外国人労働者の労働災害発生状況」によると、外国人労働者全体の死傷者数は5,672人(前年比864人増)で、死傷年千人率は2.77でした。在留資格別では技能実習が4.10、特定技能が4.31と、日本人労働者の平均と比較して格段に高い水準にあります。
出典:厚生労働省「令和5年 外国人労働者の労働災害発生状況」(2024年公表)
建設業に従事する外国人技能実習生では、ベトナム・中国・フィリピン・インドネシアの4か国出身者が大多数を占めます。特定技能への移行が進んでいますが、依然として日本語能力が限られた状態で現場に入る作業員が多く、言語の壁による安全教育の形骸化が課題となっています。
外国人労働者に対する安全衛生教育は、労働安全衛生法の規定に基づき事業主に義務づけられています。日本人労働者と同じ書類を渡して終わり、では法令違反となりうる点を安全管理者は正確に把握しておく必要があります。
つまり、「日本語で説明した」という事実だけでは義務を果たしたとは言えません。作業員が内容を理解したと確認できる方法をとることが求められています。国土交通省の外国人建設就労者受入事業に関するガイドラインでも、教育後に標識の内容や専門用語について確認テストを実施するなど、理解確認の手順を明記することが指導されています。
出典:国土交通省「外国人建設就労者受入事業に関するガイドライン」(令和26年改定版)
「言葉がわからない」という問題は、単に指示が伝わらないという以上に複合的なリスクを生み出します。SOMPOリスクマネジメントの分析では、外国人労働者の安全管理における課題として、言語の壁と安全文化の差異が主因として挙げられています。
| リスク要因 | 具体的な場面 | 想定される事故 |
|---|---|---|
| 安全指示の未理解 | 朝礼・TBMで日本語のみ説明 | 危険区域への立入、作業手順の誤り |
| 標識・掲示の誤認 | 「立入禁止」「感電注意」の意味不明 | 墜落・転落、感電、はさまれ |
| 危険の申告ができない | 異常を感じても言葉で伝えられない | ヒヤリハットの見逃し、重大事故 |
| KY活動の形骸化 | 内容を理解せず署名だけ行う | 危険予知が機能せず事故発生 |
| 緊急時の対応遅延 | 避難経路・緊急連絡先が不明 | 避難遅れ、負傷の重大化 |
特に注意が必要なのは「理解したふり」の問題です。外国人作業員の多くは、わからなくても「はい」と答えてしまう傾向があります。これは不真面目さではなく、否定的な返答をすることへの文化的な心理的障壁から来ることが多いです。質問に対して肯定的な回答が返ってきても、それだけで理解を確認したとみなすのは危険です。
多言語対応の安全教育資料を自社で作成する場合、「翻訳すれば完成」ではありません。現場の実態に即した内容設計と、文化的に伝わる表現の選択が求められます。以下に実務的な作成手順を整理します。
建災防(建設業労働災害防止協会)が公開している外国人建設就労者向け安全衛生教育映像教材は、英語・中国語(簡体字)・ベトナム語・インドネシア語の4言語に対応しており、無料で活用できます。作業種別の安全ポイント(47作品)と労働災害事例(35作品)が収録されているため、自社資料のベースとして活用価値が高いです。
「やさしい日本語」とは、外国人や高齢者など日本語が得意でない人向けに、語彙・文法・文章構成を簡略化した表現です。翻訳コストをかけずに伝達品質を上げる手段として、建設現場での活用が広がっています。
| 通常の表現 | やさしい日本語 | ポイント |
|---|---|---|
| この区域は立入禁止です | ここ はいれません | 漢字をひらがなに、短文化 |
| ハーネスを着用してから作業を開始してください | しごとのまえに ハーネスをつけてください | 助詞を減らし語順を単純に |
| 資材の落下に注意すること | うえから ものが おちます きをつけてください | 主語・動作を明示 |
| 作業終了後は速やかに整理整頓を行うこと | しごとが おわったら かたづけてください | 副詞的修飾語を削除 |
| 異常を発見した場合は直ちに報告すること | へんなこと みたら すぐ リーダーに いってください | 「異常」を具体的な行動で表現 |
KYボード・安全指示書・場内掲示物にやさしい日本語を併記することで、多言語化の優先度を下げながら安全情報の到達率を上げることができます。以下の点を意識して作成します。
やさしい日本語は万能ではありません。日常会話はできても専門用語の理解が追いつかない作業員には母国語資料との組み合わせが必要です。やさしい日本語はあくまで「補完手段」として位置づけ、重要な安全指示は母国語資料でも確認できる体制を整えることが理想です。
AnzenAIでは、安全日誌・KY活動記録・安全指示書などの書類作成をAIがサポート。外国人作業員への説明資料作成にも活用できます。
AnzenAIを無料で試す 機能を詳しく見る安全管理の観点からは、外国人作業員の出身国によって「安全に対する文化的な価値観」が異なる点への理解が不可欠です。日本の現場では「当たり前」とされるルールが、出身国では存在しない場合があります。これを「モラルの問題」として処理するのではなく、「知識の差」として教育でカバーするという発想の転換が重要です。
| 出来事 | 文化的背景 | 対応策 |
|---|---|---|
| ヘルメットを着用しない | 出身国で義務化されていない場合がある | 「日本の法律で義務」と明示、着用の理由を図解で説明 |
| 指示なく作業範囲を拡大する | 自己判断を「勤勉さ」と捉える文化もある | 「作業範囲を変える前に必ず確認する」ルールを明文化 |
| 休憩時間に喫煙・スマホ使用が多い | 緩やかな労働規律の環境出身 | 場内ルールを入職時に一覧で提示、理由も説明する |
| 礼拝の時間を求める | イスラム教徒の祈祷習慣 | 昼休みの延長や場所確保など合理的配慮を検討する |
| 上長への反論を避ける | 上下関係が厳格な文化 | 「危険を感じたら言うのが義務」を繰り返し伝える |
外国人作業員が「危ない」と感じても上司に言い出せない状況は、重大な事故の前兆を見逃す原因になります。異国での就労という立場上、作業員は指摘や苦情を言いにくい心理状態にあります。管理者側から定期的に声をかける仕組み、たとえば週次の個別面談や多言語のヒヤリハット報告書の設置などが有効です。
宗教上の理由から豚肉・アルコール成分を含む食品を摂取できないムスリム作業員の割合はインドネシア・バングラデシュ出身者を中心に増加しています。現場の昼食手配や宴会の案内においても配慮が求められます。休日の扱いについても、就業規則を入職時に多言語で説明し、祝日・法定休暇の考え方を共有しておくことでトラブルを防げます。
多言語安全教育資料をゼロから作るのはコストと時間がかかります。厚労省・建災防・中災防が公開している無料教材を活用することで、作成負担を大幅に削減できます。
| 提供機関 | 教材名 | 対応言語 | 形式 |
|---|---|---|---|
| 建災防 | 外国人建設就労者のための安全衛生教育映像教材 | 英・中・越・インドネシア語 | 動画(YouTube) |
| 厚生労働省 | 外国人建設就労者向け安全衛生視聴覚教材 | 英・中・越・インドネシア語 | 動画・テキスト |
| 中央労働災害防止協会(中災防) | 外国語安全衛生テキスト | 英・中・越・タイ・インドネシア語など | PDF・冊子 |
| 厚生労働省 | 業種別の教材(建設業編) | 日本語(やさしい表現含む) | |
| 国土交通省 | 建設分野における外国人材の受入れ資料 | 日本語 |
厚生労働省は「外国人労働者就労環境整備助成コース」として、社内多言語マニュアルの作成や生活支援体制の整備に最大100万円の助成を行っています(2024年度より拡充)。安全教育資料の多言語化費用も対象になりうるため、労働局・ハローワークへの確認を推奨します。
出典:厚生労働省「外国人労働者就労環境整備助成コース」(2024年度)
近年は、QRコードを現場掲示物に貼り付けて、スキャンすると多言語の安全説明動画が再生される仕組みを採用する現場も増えています。タブレット端末での電子KY記録と組み合わせることで、外国人作業員の理解確認を記録・管理しやすくなります。作業員のスマートフォンに翻訳アプリを入れてもらい、朝礼後に自分で内容を確認できる環境を整えるのも一つの方法です。
外国人作業員の安全管理は、日本人作業員と同じ基準で教育を実施しながら、「伝わる手段」を追加するという発想で取り組むのが現実的です。以下のチェックリストを活用して、自社の取り組み状況を確認してください。
外国人作業員の安全管理効率化に役立つツールを2つご紹介します。
建設現場の安全書類作成・管理をAIでサポート。KY活動記録・安全指示書・ヒヤリハット報告書などのドキュメント作成を効率化します。外国人作業員向けの説明資料作成にも活用できます。
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