安全管理 / 粉じん・健康障害対策

建設現場の粉じん対策
【石綿・シリカ・溶接ヒューム】

2026年3月4日  |  読了目安 約12分  |  対象: 安全管理者・職長

建設現場の粉じんとは――3種の有害物質を整理する

建設現場で発生する粉じんは「目に見えないから安全」ではありません。石綿・結晶質シリカ・溶接ヒュームの3種は、いずれも肺の奥深く(肺胞領域)まで到達する微細粒子を含み、長期ばく露によって取り返しのつかない健康障害を引き起こします。いずれも発症まで10年以上の潜伏期間があるため、「今は症状がない=安全」という認識は危険です。

石綿(アスベスト)

解体・改修工事で発生。肺がん・中皮腫・石綿肺の原因。現行法令で最も厳格な規制対象。潜伏期間は平均35年前後。

結晶質シリカ(遊離けい酸)

コンクリート・モルタル・岩石の切断・研削・解体で発生。じん肺(けい肺)の主因。遊離けい酸含有率が高いほど有害性が増す。

溶接ヒューム

金属アーク溶接等で発生する金属酸化物の微粒子。マンガン化合物を含み神経系障害・肺疾患のリスク。2021年より特定化学物質規制対象。

「複合ばく露」に注意
実際の建設現場では、解体作業中に石綿粉じんと結晶質シリカに同時ばく露するケースや、鉄骨溶接とコンクリートはつりが同一フロアで並行するケースがあります。各物質の規制値は独立して設定されていますが、複合ばく露時のリスクは単純加算以上になる可能性があるため、作業の切り分けと換気計画が重要です。

健康被害の実態と最新統計

粉じんによる健康障害の深刻さは、公表統計数値からも確認できます。石綿関連疾患では、令和5年度(2023年度)に厚生労働省が公表した労災認定事業場が過去最大の1,318事業場に上りました。石綿ばく露から発症まで平均35年前後かかることから、高度成長期の建設ラッシュ時に使用された石綿が今も被害を生み続けている状況です。

1,318事業場
石綿労災認定事業場数(令和5年度)
過去最大を記録
約35
石綿関連疾患(中皮腫等)の
平均潜伏期間
2021年〜
溶接ヒューム特定化学物質
規制適用開始(令和3年4月)
2026年〜
工作物の石綿事前調査
有資格者義務化(令和8年1月)

出典: 厚生労働省「令和5年度石綿ばく露作業による労災認定等事業場」(2024年公表)、建災防・厚生労働省公表資料

じん肺(結晶質シリカ等による肺線維症)については、北海道労働局の資料によると近年の新規有所見者は減少傾向にあるものの、建設業は製造業と並んで有所見者が多い業種のまま推移しています。溶接ヒュームについては規制が施行された2021年以降も、フィットテスト未実施・換気不足など法令違反が散見されており、労働基準監督署の指導対象になるリスクが続いています。

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石綿(アスベスト)対策――法令と実務手順

石綿は1975年に吹付け作業が原則禁止され、2006年には製造・使用が全面禁止となりました。ただし、2006年以前に建設された構造物には依然として石綿含有材料が使用されており、解体・改修工事では今後も長期にわたってばく露リスクが続きます。

【主な根拠法令】石綿障害予防規則(石綿則)・大気汚染防止法
石綿則第3条:建築物・工作物・船舶の解体等の作業を行うときは、石綿等の使用の有無について、あらかじめ目視・設計図書等により調査し、その結果を記録しなければならない。(事前調査の義務)
石綿則第4条:石綿等が使用されている建築物等の解体等の作業を行う場合、作業計画を定め、関係労働者に周知しなければならない。

2023年・2026年の法改正で変わった義務内容

石綿則を巡る直近の重要な改正ポイントは2点あります。1点目は2023年10月に施行された「建築物の石綿事前調査の有資格者義務化」です。それ以前は事前調査に特定の資格要件がありませんでしたが、現在は「建築物石綿含有建材調査者」等の有資格者が調査を担当しなければなりません。2点目は2026年1月1日に施行される「工作物の石綿事前調査の有資格者義務化」です。これにより、橋梁・タンク・プラント設備等の工作物解体においても有資格者による事前調査が必須となります。

対象 有資格者義務化の施行時期 資格区分
建築物(ビル・住宅等) 2023年(令和5年)10月〜 建築物石綿含有建材調査者(一般・一戸建て等・特定)
工作物(橋梁・タンク等) 2026年(令和8年)1月1日〜 工作物石綿事前調査者
船舶 既存規定あり(国土交通省管轄) 別途規定

出典: 厚生労働省「石綿障害予防規則等関係法令について」・石綿総合情報ポータルサイト(2025年時点)

現場での石綿ばく露防止の実務ポイント

結晶質シリカ(遊離けい酸)対策

コンクリート・岩石・砂に含まれる結晶質シリカ(石英等)は、切断・研削・はつり・削孔の際に微細な吸入性粒子として飛散します。この粒子が肺に蓄積すると、肺線維症「けい肺」を発症します。発症すると不可逆的な進行をたどるため、ばく露前の予防対策が基本となります。

「高純度結晶性シリカ」への特別注意
厚生労働省は2018年(基安発0927第2号)に「高純度結晶性シリカの取扱作業に伴う留意点」を通達しています。半導体・光学部品製造等で使用される高純度シリカは、通常のコンクリート粉じんより吸入性粒子の比率が高く、より短期間で急性じん肺(加速型じん肺)を発症させる事例が報告されています。建設業でもセメント系特殊材料の取り扱い時には留意が必要です。

コンクリートはつり・研削作業での具体的対策

  1. 湿式工法の採用
    グラインダー・ダイヤモンドカッター等に給水装置を取り付け、切削面を常時湿潤状態に保つ。粉じんの発生量を乾式と比較して大幅に削減できる。既存機材に後付けできる湿式アダプターも市販されている。
  2. 局所排気・集じん装置の接続
    作業工具に集じん機(HEPAフィルター搭載)を直結する。スラブ上のはつり作業など湿式が困難な場合に特に有効。集じん機の排気は屋外へ導くか高性能フィルターで処理する。
  3. 作業区画の設定と換気
    はつり作業エリアを養生シートで囲み、全体換気(毎時6回以上の換気回数が目安)を確保する。粉じんが拡散しにくい状況を作ることで、周辺作業者へのばく露も低減できる。
  4. 呼吸用保護具の着用
    作業環境測定の結果に応じて、防じんマスク(DS2以上または RS2以上)または電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)を選定する。フィットテストを実施し、使用者に正しい装着方法を教育する。
  5. 作業時間の管理
    1日の作業環境測定結果が第3管理区分相当の場合は、ばく露時間の短縮を検討する。ローテーション勤務による個人ばく露量の分散も有効な手段の一つ。
【管理濃度】粉じん障害防止規則・作業環境評価基準
結晶質シリカ(石英)の管理濃度:遊離けい酸含有率0.1〜10%未満の粉じん=0.5mg/m³、10%以上の粉じん=0.2mg/m³(吸入性粉じんとして)。作業環境測定の結果が第1管理区分(ほぼ良好)の維持が目標。第3管理区分は直ちに改善措置が必要。

溶接ヒューム対策――2021年規制強化の実務対応

2021年(令和3年)4月1日より、金属アーク溶接等作業が特定化学物質障害予防規則(特化則)の第2類物質「溶接ヒューム」として規制対象に加わりました。これに伴い、建設現場での鉄骨溶接・配管溶接等の作業では、従来の安全衛生規則による一般的な粉じん対策から、特化則に基づくより厳格な管理体制への移行が求められています。

溶接ヒューム規制の主な義務内容

義務事項 内容 施行時期
換気措置 屋内での金属アーク溶接等作業には全体換気装置または局所排気装置の設置が必要 2021年4月〜
作業環境測定(溶接ヒューム) 屋内の継続作業場で6か月以内ごとに1回の濃度測定が義務(マンガンとして0.05mg/m³が管理濃度) 2022年4月〜
呼吸用保護具の使用 有効な呼吸用保護具(防じんマスク等)の使用が義務化。測定結果が第3管理区分の場合はより高性能な保護具が必要 2021年4月〜
フィットテスト 面体を有する呼吸用保護具を使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回のフィットテスト実施が義務化 2023年4月〜
特殊健康診断 雇入れ時・配置転換時・その後6か月以内ごとに1回の健康診断実施が義務 2021年4月〜
作業主任者の選任 特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習修了者を選任 2021年4月〜

出典: 厚生労働省「特定化学物質障害予防規則 溶接ヒュームに係る規制の追加」(令和3年施行)

建設現場の「屋内」判断に注意
溶接ヒューム規制は「屋内作業場」が対象です。ただし、一般的に「屋外」とみなされがちな仮設テント内・建設途中の建物内部も、壁や屋根に相当する囲いがある場合は屋内扱いになるケースがあります。現場の実態に合わせて判断し、不明確な場合は所轄の労働基準監督署に確認することを推奨します。

作業環境測定の進め方

労働安全衛生法第65条は、有害な粉じんが発生する屋内作業場での作業環境測定を事業者に義務付けています。測定結果は「第1〜第3管理区分」に評価され、管理区分に応じた対策が法定されています。建設業では同一現場内での作業環境が工程とともに変化するため、測定タイミングの設計が重要です。

管理区分と必要な対応措置

管理区分 評価の目安 必要な措置
第1管理区分 ほとんどの測定点で管理濃度未満 現状の管理を継続。改善の必要は低い。
第2管理区分 平均値が管理濃度未満だが超過測定点あり 施設・設備・作業工程の点検と改善措置。作業方法の見直し。
第3管理区分 平均値が管理濃度以上 直ちに作業環境の改善。改善完了まで有効な呼吸用保護具を全員使用。産業医等の意見を踏まえ就業上の措置を講じる。

建設現場での測定実施上の注意点

建設現場は製造業の固定工場と異なり、作業場所が移動し、工程によって発生する粉じんの種類や量が大きく変化します。粉じん作業を行う区画ごと・工程ごとに測定対象を整理し、作業環境測定機関との事前協議で適切なサンプリング計画を策定することが実務上のポイントです。

呼吸用保護具の選定とフィットテスト

適切な呼吸用保護具の選定は、粉じん対策の最後の防衛線です。工学的対策(換気・湿潤化・集じん)を実施した上でもばく露が懸念される場合、または測定結果が第3管理区分の場合は、個人の呼吸用保護具が必須となります。

粉じん種別による保護具の目安

粉じん種別・作業 推奨する保護具の最低水準 補足
一般的なコンクリート粉じん(はつり等) DS2またはRS2以上の防じんマスク 遊離けい酸含有率10%未満の場合
高濃度けい酸粉じん(岩石掘削等) DS3またはRS3以上、もしくはPAPR 個人ばく露測定実施を推奨
石綿含有建材の除去作業(レベル2相当) RS3またはRL3以上の防じんマスク(面体型・全面形推奨) フィットテスト必須、作業毎に確認
石綿吹付け材の除去(レベル1相当) 電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)またはエアラインマスク 隔離・負圧管理と併用
溶接ヒューム(金属アーク溶接等、第2管理区分以下) 防じんマスク(DS2・RS2以上)またはPAPR フィットテスト年1回以上実施
溶接ヒューム(第3管理区分) PAPR(電動ファン付き)またはエアラインマスク 産業医の意見も踏まえて選定

フィットテストの義務と実施方法

2023年4月から、化学物質関係の規制強化に伴い、面体型の呼吸用保護具を使用する労働者に対して年1回以上のフィットテスト実施が義務化されました(粉じん障害防止規則改正・特化則改正)。フィットテストには「定性的フィットテスト(ネビュライザー等を使用)」と「定量的フィットテスト(粒子計数器を使用)」の2種があります。

フィットテスト実施の記録義務
フィットテストの結果は、使用した保護具の種類・結果・実施日等を記録し3年間保存が必要です。フィットファクターが規定値(定量法では100以上が目安)を下回った場合は、マスクの種類変更またはサイズ変更を行い、再テストを実施します。

特殊健康診断(じん肺・石綿・溶接ヒューム)の義務整理

粉じん作業に従事する労働者には、通常の定期健康診断に加えて、法令で定められた特殊健康診断の実施が事業者の義務です。診断の種類・頻度・保存年数は物質ごとに異なるため、対象者と時期を正確に把握した管理が求められます。

種別 対象者 実施頻度 主な検査項目 記録保存期間
じん肺健康診断
(じん肺法)
粉じん作業従事者・従事経験者 就業時・3年以内ごと(有所見者は頻度増)・離職時 胸部X線・肺機能検査等 7年間
石綿健康診断
(石綿則第40条)
石綿等を取り扱う・取り扱った労働者 雇入れ時・配置転換時・6か月以内ごとに1回 胸部X線・喀痰細胞診等 40年間
溶接ヒューム健康診断
(特化則第39条)
金属アーク溶接等作業従事者 雇入れ時・配置転換時・6か月以内ごとに1回 業務歴調査・神経系症状・胸部X線等 5年間(一部30年間)

出典: じん肺法・石綿障害予防規則・特定化学物質障害予防規則(いずれも最新改正版)

石綿健診の「40年保存」は徹底を
石綿関連疾患の潜伏期間が最長で40〜50年に及ぶことを踏まえ、石綿健康診断の個人票は40年間保存が義務付けられています(他の特殊健診と比べて格段に長い)。紙記録の経年劣化・会社の閉鎖・担当者交代などで記録が失われるリスクがあるため、電子化・クラウド保管による長期管理体制の整備が現実的な対策です。

じん肺管理区分と就業上の措置

じん肺健康診断の結果は、都道府県労働局長が「じん肺管理区分(管理1〜管理4)」を決定します。管理区分2以上と判定された労働者については、事業者は所定の就業上の措置(粉じん作業への就業制限、療養の指示等)を講じなければなりません。管理区分の申請・通知手続きはじん肺法に定められており、手続きの遅延は法令違反となります。


デジタルツールによる管理効率化

粉じん対策は、作業環境測定・保護具管理・健康診断追跡・法改正対応など、管理すべき項目が多岐にわたります。紙や個別スプレッドシートで管理している現場では、記録の散逸・フォローもれ・担当者退職による引き継ぎ失敗といった問題が繰り返されがちです。

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まとめ

建設現場の粉じん対策は、「今すぐ症状が出ない」という性質から後回しにされがちですが、一度発症すれば不可逆的な障害をもたらし、法人としての損害賠償責任・行政処分リスクも伴います。本記事の要点を整理します。

粉じん管理は継続的な取り組みが前提です。法令改正の動向を定期的にチェックしつつ、作業環境測定・保護具管理・健診追跡を漏れなく回し続ける仕組みを現場に組み込むことが、安全管理者に求められる実務の核心です。


参考資料・出典
・厚生労働省「石綿障害予防規則等関係法令について」・「石綿総合情報ポータルサイト」
・厚生労働省「令和5年度石綿ばく露作業による労災認定等事業場」(2024年公表)
・厚生労働省「特定化学物質障害予防規則 溶接ヒュームに係る規制の追加」(令和3年施行)
・厚生労働省「高純度結晶性シリカの取扱作業に伴う留意点」(基安発0927第2号・平成30年9月)
・厚生労働省「第3管理区分の作業場での作業には、測定に基づき適切な呼吸用保護具を使用しましょう」(令和5年3月)
・建設業労働災害防止協会(建災防)「建設業における化学物質管理」
・じん肺法・石綿障害予防規則・特定化学物質障害予防規則・粉じん障害防止規則(e-Gov法令検索・最新改正版)
・北海道労働局「粉じんを吸い込むことによって発症する「じん肺」」(令和4年度)