ISO審査で「不適合の管理が不十分」と指摘された、あるいは是正処置を書いたものの再発を繰り返しているという声をよく耳にします。建設現場では、設計図と異なる施工、材料の規格外使用、検査記録の漏れなど、不適合が発生する場面は多岐にわたります。
本記事では、ISO 9001(品質マネジメント)とISO 45001(労働安全衛生マネジメント)の要求事項に照らしながら、不適合管理の定義から是正処置の手順、記録の残し方、水平展開の実践まで順を追って解説します。審査対応だけでなく、日常の品質管理サイクルを強化したい方にも参考にしていただける内容です。
ISO規格における「不適合(nonconformity)」とは、要求事項を満たしていない状態を指します。この「要求事項」には、法令・顧客仕様・設計図書・施工手順書・ISO規格自体の要求事項が含まれます。
建設現場で発生しやすい不適合は、大きく3つの区分で整理できます。
設計図・仕様書との相違(鉄筋ピッチの誤り、コンクリート強度不足、溶接欠陥など)
法定基準や社内安全基準の未充足(手すり未設置、特別教育未実施、保護具未着用など)
ISOが求める記録・手順・審査の不備(是正処置記録の漏れ、内部監査の未実施など)
また、ISO 9001 10.2では「修正(correction)」と「是正処置(corrective action)」を区別することが求められています。修正は「不適合そのものを取り除く応急処置」であり、是正処置は「不適合の原因を除去し再発を防ぐ根本的な対策」です。この2つを混同したまま対応を終わらせると、表面的には解決しても同じ問題が繰り返されます。
建設現場での不適合管理の必要性を示す背景として、まず業界全体の数値を確認しておきます。
建設業は全産業のなかで死亡者数が最も多い業種であり続けており、安全衛生上の不適合を放置することのリスクは非常に大きいと言えます。ISO 45001が「不適合・インシデントの調査と是正処置」を要求している背景には、こうした実態があります。
品質面でも、施工不良の発生原因として「工期の余裕のなさ」「作業員の知識・技術不足」「施工手順の不遵守」が繰り返し指摘されています。いずれも、不適合を早期に検出して是正処置につなげる仕組みがあれば、被害を最小化できる問題です。
ISO 9001:2015およびISO 45001:2018は、いずれも第10条「改善」の10.2項で不適合と是正処置について要求しています。両規格は共通の骨格(HLS:ハイレベルストラクチャー)を持つため、建設業でWMS(統合マネジメントシステム)として両規格を運用している企業には、一本化した不適合管理手順が有効です。
ISO 45001には加えて、インシデント(事故・ヒヤリハット)の調査を是正処置プロセスに連動させることも求められています。建設現場では、ヒヤリハット報告→原因調査→是正処置→水平展開という流れを是正処置の一環として位置づけることで、ISO審査への対応と現場の安全改善を一体的に進めることができます。
| 項目 | ISO 9001(品質) | ISO 45001(安全衛生) |
|---|---|---|
| 不適合の対象 | 品質要求事項の不充足 | 安全衛生基準の不充足・インシデント |
| 修正の要求 | あり(応急処置) | あり(危険源の除去・隔離を含む) |
| 原因分析の要求 | あり(根本原因の特定) | あり(インシデント調査を含む) |
| 水平展開 | 類似不適合の確認と対策 | 他現場・他工程への展開 |
| 記録の保持 | 是正処置の証拠として必須 | 是正処置の証拠として必須 |
| 有効性の確認 | 実施後に効果を評価 | 実施後に効果を評価 |
建設現場で実践しやすい是正処置の流れを5つのステップに整理します。各ステップで何を確認し、何を記録するかを明確にすることが、審査対応と再発防止の両立につながります。
施工検査・自主点検・内部監査・顧客クレームなどで不適合を検出したら、まず安全と品質への影響を評価し、必要な応急処置(修正)を行います。作業停止・隔離・手直し指示など、被害の拡大を防ぐ行動が優先です。
不適合報告書に、発生日時・場所・工種・内容・応急処置の内容を記録します。軽微な指摘も含めてすべて記録することが、パターン把握と水平展開の基盤になります。
「なぜなぜ分析」や「特性要因図(魚骨図)」を使い、不適合の直接原因だけでなく、それを引き起こしたシステム上の要因(手順の欠如・教育不足・チェック機能の不備など)を特定します。表面的な原因のみで是正処置を立案しても再発防止につながりません。
特定した根本原因に対して、具体的な是正処置(手順書の改訂・教育の実施・確認ポイントの追加など)を立案し、担当者・期限を明記して実施します。「検討する」「注意する」という記述では、审査で有効性を評価できないと判断されます。
是正処置を実施した後、同種の不適合が再発していないかを確認します。確認時期(通常1〜3か月後)を事前に設定しておき、効果が確認できた段階で不適合管理台帳をクローズします。効果が不十分な場合は再分析・再立案へ戻ります。
| なぜ? | 分析内容 |
|---|---|
| 事象 | スラブ配筋のかぶり厚が規定値(40mm)を下回っていた(実測30mm) |
| なぜ1 | スペーサーが適切な位置に設置されていなかった |
| なぜ2 | スペーサーの設置位置と個数について、作業員への指示が口頭のみで図示されていなかった |
| なぜ3 | 施工要領書にスペーサーの設置基準が記載されていなかった |
| 根本原因 | 施工要領書の作成基準に、スペーサー管理項目が含まれていなかった |
| 是正処置 | 施工要領書の改訂(スペーサー設置基準の明記)+配筋完了後の検査チェックシートに確認項目追加 |
AnzenAIなら、スマートフォンで不適合を撮影・記録し、是正処置の進捗管理まで一元化できます。報告書の転記作業を大幅に削減できます。
AnzenAIを試してみる 機能を見るISO 9001:2015・ISO 45001:2018はいずれも、不適合と是正処置に関する「文書化した情報(記録)」の保持を義務づけています。審査での証拠として機能させるには、記録の内容・形式・保管方法の3点を整備することが重要です。
ISO規格では記録の保管期間を規格が直接定めているわけではなく、組織が必要と判断する期間を手順書等で定めることを求めています。建設業の場合、完成後の瑕疵担保期間(民法上は10年、建設業法では一般建設工事で2年、住宅では品確法で10年)を考慮すると、竣工後10年を目安とする企業が多い実態があります。
是正処置で「再発防止」ができても、同じ原因による不適合が別の現場や別の工種で発生することは珍しくありません。ISO 10.2ではこの視点を「類似の不適合が存在するか、または発生する可能性があるかを評価する」という要求事項として明示しています。これが「水平展開」の根拠です。
| チェック項目 | 展開が必要なケース |
|---|---|
| 同一工種・同一手順 | 他現場で同じ施工手順を採用している場合 |
| 共通の教育課題 | 同じ業者・同じ班が複数現場に入っている場合 |
| 共通の資材・機材 | 同一ロットの材料や同一機種の機械を使用している場合 |
| 手順書の共通化 | 問題のある手順書を全社共通で使用している場合 |
| 設計・仕様の共通化 | 同じ設計基準・仕様書を使用している現場がある場合 |
不適合が発生した工種・手順・材料・担当者に共通点を持つ現場や工程を、プロジェクト管理台帳から抽出します。
発生した不適合の概要(原因・是正処置の内容)を関係現場の担当者へ文書またはデジタルで共有します。口頭連絡のみでは記録として残りません。
各現場で同様の状態がないかを確認し、問題があれば是正処置を実施します。問題がない場合も「確認した」という記録を残します。
個別現場の対応にとどまらず、全社共通の施工要領書・チェックリスト・教育テキストへの反映が水平展開の本質です。これによって新規現場でも同じミスを防げます。
紙帳票による不適合管理は、転記ミス・紛失・検索の困難さといった課題を抱えています。建設現場のISO対応を実効的なものにするためには、デジタルツールの導入が有効です。
是正処置で最も難しいのが「根本原因の特定」です。なぜなぜ分析を正確に行うには一定のスキルが必要であり、現場担当者が「なんとなく書いた」内容では審査で有効性を評価されません。
ロジックツールのWhyTrace(https://whytrace.com/)は、なぜなぜ分析・特性要因図・ロジックツリーをブラウザ上で作成・保存できるツールです。分析結果をそのまま是正処置報告書に添付できるため、「根本原因を特定した証拠」として審査対応にも活用できます。
AnzenAIは現場の不適合記録から是正処置のフォローアップまで、ISO 9001・ISO 45001の要求事項に対応した管理フローをサポートします。
無料でAnzenAIを使う建設現場における不適合管理は、ISO審査対策にとどまらず、品質確保・安全確保・信頼性向上につながる経営上の重要プロセスです。本記事のポイントを整理します。
不適合管理を形だけの審査対応に終わらせず、現場の改善サイクルに組み込むことが、ISOマネジメントシステムの本来の価値を引き出すことにつながります。