安全管理 / 転倒・つまずき防止

建設現場の転倒・つまずき事故防止策
【高齢作業者対策含む】

2026年3月4日  |  読了目安 10分  |  対象:安全管理者・現場監督

「転倒」は今や全労働災害で最多の事故類型だ。休業4日以上の死傷者に占める割合は2009年以降20%を超え、直近では全体の約26〜27%に達している。墜落・転落が多いイメージの強い建設業でも、転倒・つまずきは死傷者数の約10〜11%を占める第3位の事故類型であり、軽傷で済むとは限らない。1か月以上の長期休業につながるケースも多く、55歳以上の割合が37%近くに達した建設現場では、高齢作業者特有のリスクへの対応も急務だ。本稿では最新統計をもとに原因を整理し、安全管理者がすぐに着手できる具体的な防止策を解説する。

転倒・つまずき災害の現状と統計

厚生労働省が2025年5月に公表した令和6年(2024年)の労働災害発生状況によると、全産業の休業4日以上の死傷者数は過去最多水準が続いており、そのうち「転倒」が事故の型別で最多を占める。建設業単体でも以下の規模感となっている。

232
建設業 死亡者数(2024年)
13,849
建設業 死傷者数(2024年)
1,598
建設業 転倒死傷者数(2024年)
47.5
転倒の平均休業見込日数(2024年)

出典:厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」(2025年5月公表)

転倒による平均休業見込日数は47.5日(令和6年)。骨折を伴うケースでは長期離脱となり、工程遅延や代替要員コストへの影響も無視できない。また、転倒・つまずき災害は「たいした事故ではない」と軽視されがちだが、転倒によるケガの約6割が休業1か月以上に及ぶことが厚労省の推進資料でも示されている。

高齢者ほどリスクが高い
60歳代以上の転倒死傷年千人率は4.00(2024年)と全年齢平均の約6倍に達する。建設業で55歳以上が約37%を占める現状では、高齢作業者対策は転倒防止の核心に位置する。
出典:厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」(2025年5月)

建設業の転倒災害:事故の型別の位置づけ

順位 事故の型(建設業・死傷) 死傷者数(2024年) 全死傷に占める割合
1位 墜落・転落 4,351人 約31.4%
2位 はさまれ・巻き込まれ 約2,200人 約16%
3位 転倒 1,598人 約11.5%
4位 激突 約900人 約6.5%

出典:厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」(2025年5月)/建設業労働災害防止協会統計資料より推計

建設現場特有の発生原因

転倒・つまずき災害には「床・地面の状態」「視認性」「作業者の身体機能」の3つの要因が複合して絡み合う。建設現場では日常的な職場と異なり、これらの悪化要因が同時に複数存在しやすい。

床・地面の状態悪化

雨天後の泥濘、コンクリート打設時の養生シート、敷鉄板の油汚れ、資材の散乱による不規則な凹凸など。

不規則な段差・開口部

建設途中の構造物には未確定の段差が多い。養生蓋のずれ、仮設通路の継ぎ目、スロープの急角度。

通路への資材放置

工程が輻輳する時期ほど仮置き資材・ケーブル・ホースが通路上に溢れ、つまずきの原因になる。

不適切な履物・服装

泥や油でソールが摩耗した安全靴、裾の長い作業服など、個人の装備起因のリスクも無視できない。

不注意・焦り・疲労

工期末期の過密作業、長時間労働による集中力低下、ながら歩き。高齢者では反射速度の低下も加わる。

発生場所の傾向
建設現場における転倒災害は「通路」「作業床」「階段・スロープ」の3か所で大半が発生する。特に工事用通路は資材搬入・排出のたびに状況が変わるため、日々の確認が不可欠だ。

転倒・つまずき防止に直接関わる主な法令は労働安全衛生法および労働安全衛生規則(安衛則)だ。安全管理者は以下の条文を実務の基準として押さえておく必要がある。

労働安全衛生規則 第540条(通路)
事業者は、作業場に通ずる場所および作業場内には、労働者が使用するための安全な通路を設け、かつ、これを常時有効に保持しなければならない。また主要な通路には、通路であることを示す表示をしなければならない。
労働安全衛生規則 第542条(床面)
事業者は、作業場の床面については、つまずき、すべり等の危険のないものとし、かつ、これを安全な状態に保持しなければならない。
労働安全衛生規則 第604条・第605条(採光・照明)
作業場の照度基準:精密な作業 300ルクス以上、普通な作業 150ルクス以上、粗な作業 70ルクス以上。通路についても正常な通行を妨げない程度の採光・照明を講じなければならない。
エイジフレンドリーガイドライン(厚生労働省・2020年3月公表)
高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン。「安全衛生管理体制の確立」「職場環境の改善」「健康・体力の状況把握」「状況に応じた対応」「安全衛生教育」の5つの取組を事業者に求めている。転倒等リスク評価セルフチェック票の活用も推奨されている。
ポイント
安衛則の通路・床面・照明に関する規定は建設現場にも当然適用される。「仮設だから」「工事中だから」という理由で基準を緩めることは許されない。行政指導の対象となりうる点を管理者は明確に認識しておきたい。

基本的な転倒防止対策

転倒防止対策は「ハード(環境整備)」と「ソフト(教育・ルール)」の両面から進める必要がある。どちらか一方に偏ると効果が持続しない。

ハード対策:環境整備の優先項目

ソフト対策:教育とルール整備

KY活動・ヒヤリハット報告をAIでサポート

AnzenAIなら転倒・つまずき事故のリスクアセスメントや安全書類の作成を現場から直接実施できます。

AnzenAIを試す(無料) 機能一覧を見る

高齢作業者への追加対策

建設業の55歳以上労働者比率は約37%(2024年)に達しており、5年後には高齢化がさらに進む見込みだ。高齢者の転倒リスクが高い理由は身体的変化に起因しており、若い作業者向けの一般的な対策を適用するだけでは不十分だ。

高齢作業者の身体的リスク要因

バランス感覚・反射速度の低下

つまずいた際に体勢を立て直す能力が低下。転倒した場合の骨折リスクも高い。

筋力・持久力の低下

重量物の運搬時や足場を昇降する際に膝・腰への負担増。疲労の蓄積が速くなる。

服薬の影響

高血圧・糖尿病・睡眠障害等の治療薬が立ちくらみ・ふらつきを誘発するケースがある。

エイジフレンドリーガイドラインに基づく実践策

厚生労働省「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(2020年公表・エイジフレンドリーガイドライン)では、事業者が取り組むべき5分野を定めている。建設現場での転倒防止に直結する具体策を以下に整理した。

取組分野 建設現場での具体策 優先度
職場環境の改善 通路照明の強化(150ルクス以上)、手すりの増設、段差の解消・明示、床面の滑り止め施工
健康・体力の状況把握 転倒等リスク評価セルフチェック票(厚労省提供)を年1回実施。結果を本人と共有し、配置に反映
状況に応じた対応 体力低下が確認された作業者には高所・重量物作業を制限。通路巡回や事務補助への配置転換も選択肢として提示
安全衛生教育 高齢者向け転倒防止体操(ストレッチ)を朝礼に組み込む。服薬による立ちくらみの申告ルールを設ける
安全衛生管理体制の確立 安全管理者が55歳以上の作業者リストを把握し、危険箇所との距離を定期的に確認する仕組みをつくる

出典:厚生労働省「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」(2020年3月公表)

エイジフレンドリー補助金の活用
中小建設会社は厚生労働省の「エイジフレンドリー補助金」を活用できる。転倒・腰痛防止のための専門家による運動指導や職場環境改善(手すり設置、滑り止め施工等)の費用の一部が補助される。詳細は都道府県労働局に確認されたい。

転倒等リスク評価セルフチェック票の使い方

厚生労働省が提供する「転倒等リスク評価セルフチェック票」は、バランス能力・下肢筋力・歩行状況など10項目前後の質問に回答するだけで転倒リスクを数値化できるツールだ。職場安全サイト(anzeninfo.mhlw.go.jp)からダウンロード可能。年1回の定期健康診断と合わせて実施するのが現実的だ。チェック票の結果は本人に開示し、リスクが高い作業者については職長・安全管理者が面談でフォローする流れを標準化しておきたい。

現場チェックリスト

以下は安全パトロール時に使える転倒・つまずき防止の確認項目だ。週次を最低ラインとして、雨天・強風後には随時実施する。

通路・作業床

段差・スロープ・階段

照明

作業者(高齢者を含む)


関連ツール

転倒・つまずき事故防止の取組を継続的に回すには、記録・分析・教育のサイクルをデジタルで効率化することが現実的だ。以下のツールを組み合わせることで、安全管理者の負担を抑えながら対策の質を上げることができる。

❇️ AnzenAI

建設現場の安全管理書類作成・KY活動・ヒヤリハット分析をAIでサポート。転倒リスクのアセスメントや安全教育資料の自動生成にも対応。

アプリを使う
🔍 WhyTrace

なぜなぜ分析に特化したAIツール。転倒事故が発生した際の根本原因分析を体系的に支援し、再発防止策の策定を効率化する。

WhyTraceを見る

まとめ

建設現場における転倒・つまずき事故は「軽微な事故」として後回しにされがちだが、平均休業見込み47.5日という数字が示す通り、ひとたび発生すれば工程・コスト・人材に深刻な影響を与える。

対策の優先順位は明確だ。まず通路の幅・床面の状態・照明という物理的環境を法令基準に沿って整備する。次にKY活動・ヒヤリハット報告・5S活動で日常的な管理サイクルを回す。そして55歳以上の作業者比率が高い現場では、エイジフレンドリーガイドラインに基づいた個別対応——転倒リスクチェック票の実施、配置の見直し、朝礼ストレッチの導入——を組み込むことが不可欠だ。

建設業の高齢化は今後も進む。安全管理者が今この課題に手を打てるかどうかが、現場の安全文化の質を大きく左右する。

参考資料・出典一覧
國分 良太

著者

國分 良太

制御設計エンジニア → AI・IoT・DX推進|AIコンサルタント|東京の製造業メーカー開発部門

製造業の現場で設備設計・改善プロジェクト・品質向上施策に従事。なぜなぜ分析(RCA)やリスクアセスメントの実務経験をもとに、現場DXを支援するアプリケーションの開発と情報発信に取り組んでいます。AIコンサルタントとして、企業のAI・生成AI活用や現場DX導入の支援も行っています。

詳しいプロフィール →  ・  LinkedInXnote

※ 本サイトは所属企業とは関係のない個人活動です。記載の見解は筆者個人のものです。

関連サービス